素直じゃない夜 3
「俺は帰る」
「えっ野村様!?」
「何が様だ気持ちわりいな」
「そんなこと言わずに!」
唯一事情をうすぼんやりとでも察している野村に退散されると非常に困る。藁にもすがる思いで見つめると、奴は冷淡にため息をついた。
「自業自得だ」
「そんな!」
いともあっさりと俺を振り切った野村は、コートの裾を冷たい空気に翻し、駅のほうへと去って行った。
もう怒った、月曜の仕事で俺は使えない奴に成り下がって邪魔ばっかりしてやる。そんな子供のような復讐心が生まれる。
そして二軒目、野郎どもは女子大生との成り行き合コンにすっかり浮かれている。その席の隅で俺は未央の様子をうかがいながらも酒を飲んでいる。
「未央ちゃんってさあ、田賀と仲いいの? さっき渉くんとか呼んでたけど」
「ふつうだと思います。小さい頃からそう呼んでたから、慣れちゃっただけで」
「ふーん。今彼氏いる?」
口説いてんじゃねえよ。
思わず、グラスを持つ手に力が入る。
「さあ」
「わ、小悪魔だ〜」
デレデレしてんじゃねえよ。
そして未央も、さあ、とか思わせぶりなこと言ってんじゃねえよ!
俺が小刻みに貧乏揺すりをしていると、未央がちらりとこちらを見た。そして、ふ、と笑う。何、今の笑み。
「おい田賀、お前なんか悪酔いしてね?」
「え?」
「さっきから超不機嫌マックスじゃん」
いい年こいた大人が超不機嫌マックスとか言う時点でお前も悪酔いしてるだろ。
俺の生ぬるい視線にまったく気付かず、奴は女の子たちとの楽しい会話に戻っていく。
と言うか、だ。女の子たちが俺について何も言わないということは、未央はお友達に俺の存在を教えていないということになる。なんでだ。
女の子って彼氏できたら周りに自慢したりするもんじゃないのか。俺は自慢に値しないダメダメ彼氏だと言うのか。
なんかそこまで考えて、ちょっと悲しくなってテーブルに突っ伏す。
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