素直じゃない夜 5


「未央、なんで……」
「渉くん、馬鹿なの?」
「えっ」
「最初に私を彼女扱いしなかったくせに私がそうしないと拗ねるって、馬鹿なの?」
「えっあっ……」
「救いようのない馬鹿だね」
 言われてようやく、自分の過失に気が付いた。未央が、そっけなく俺を見ていた理由にも。
 とことこと俺の隣までやってきて、未央はぎろりと睨み上げてくる。
「そんなんじゃないって言われてけっこう傷ついた」
「ご、ごめんでも」
「言い訳できる立場だと思ってんのかよクズ」
「すいません」
 罵倒されて反論の余地もなく謝る。
 未央は怒っていたのだ。いや、怒っているのだ。俺が詮索を面倒くさがって、彼女だって最初に明言しなかったことを。
 実に気まずくなって黙ると、未央は歩き出す。それに慌ててついていく。
 歩きながら、未央はぽそっと呟いた。
「私は紹介できないような彼女なわけ?」
 それは、先ほど俺が未央に思ったのとまったく同じことだった。急いで否定の言葉を挟む。
「違う! 未央が、いろいろ言われんの嫌かなって思って!」
「嫌とか言ったっけ?」
「言っ、てないけど」
「じゃあ勝手に決めないで」
「ごめん……じゃあ未央は?」
「は?」
「未央だって、友達に俺のこと言ってないだろ……」
「言ってないよ」
 冷たく突き刺された言葉に、やっぱり傷つく。恋バナにすらできない彼氏なのか。
「言う必要ないじゃん。そんなのわざわざ」
「……」
「恋バナ嫌いだし」
「え、そうなの?」
「そんなその辺の馬鹿女みたいに、好きそうに見える?」
「……見えない」
 確かに。よく考えれば未央はそういう、いわゆる女の子が好みそうなことをあまり好きじゃない。
 微妙に納得できるようなできないような複雑な気持ちでいると、未央は言った。
「寒い」
「あ、うん」
「……」
「……」
「ここは手をつなぐところでしょ!?」
「え。あ、はい」
 手袋をしていない剥き出しの未央の手を慌てて握る。
 凍ったように冷たいはずの手はなんだかひどくあったかくて。
「やっべ泣きそう」
「ばっかじゃないの」
 悪態をつきつつも、未央のほっぺは寒さと酒と、何かのせいで、ちょっと赤く染まっていた。


 END

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