素直じゃない夜 2


 飢えすぎかよ。
 笑顔が引きつっているのを感じる。しかし一回否定してしまった以上、今更彼氏は俺ですなんて言いづらい。かと言って紹介するなどもってのほかである。
「や、ほら、俺はあの子のおにーさん的存在だから? お前らみたいな飢えた獣を紹介する気なんか更々? ありません的な?」
「ケチ」
 なんとでも言え。 
 そんなこんなでようやく未央から皆の意識が逸れていい具合に酒も回ってきて、飲み放題のリミットも訪れて店を出る。
 二軒目どうする、とか言っている奴らに紛れて、俺は密かに未央が座っているほうを見る。あいつ酒なんかほとんど飲めないんじゃなかったっけ、と心配していると、ぐいっと腕を引かれた。
「田賀! お前聞いてた!?」
「え、え。何?」
「だから二軒目! あの子たち誘おうよ!」
「あの子たち?」
「お前の幼馴染と、お友達!」
「やだよ!」
 脊髄反射で絶叫する。なんでそんな話になってるんだよ。
 俺が反論しようとすると、彼女たちがちょうど居酒屋の入っているビルから出てきたところだった。すかさず、同僚の一人が近づいていく。
「ねえ、まだ飲む?」
「え?」
「俺たち奢ってあげるからさあ、一緒に飲まない?」
 突然の申し出に戸惑っている女の子たちが迷っているのが見て取れる。その中の未央と目が合って、俺は必死で首を横に振りたくった。
「いいんじゃない?」
「えっ、未央、本気?」
「別に怪しい人たちじゃないしさ、奢ってくれるんなら」
 完全に下心丸出しの怪しい大人です!
 が、女の子たちの意見も行くほうに傾いているらしく、何となく笑顔が見える。そして、交渉成立、と言いながら、声をかけた奴が彼女たちを連れて戻ってきた。
 無意識に人数を数える。一人男が多い。ああ、悲しきかな合コン三昧だった日々の名残スキル。

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