XXX!


 渉くんはキス魔だ。……と思う。
「未央〜、もっとこっち来いよ〜」
「……」
 機嫌よく酔っ払って帰って来た渉くんは、スーツも脱がないままどさっとソファに座り、私を手招きしてにこにこ笑いながらぎゅむっと抱きしめてきた。ちょっと嬉しいけど、酒臭い。
「渉くん、お酒臭いよ」
「え〜? うふふふふ」
「気持ち悪ッ」
「未央は可愛いな〜」
「……渉くん頭打った?」
「チューしてやる、ほら」
「ちょっ……酒臭いんだって、ちょっと……んむ!」
 ちゅっと啄ばむようなキスが繰り返される。悪い気分じゃないけど、如何せんお酒臭い。
「ちょっと、やめ、んもう!」
「未央〜可愛いな〜」
「こらッ!」
 顔中にちゅっちゅしていた渉くんが、首筋に吸い付いた。絶対跡できてる。つけるなって言ったのに。殴ったのに。説教したのに。蹴ったのに。酔っ払いって怖い。
「ん〜? 未央はヤなの〜?」
「何が、こら、ここリビング!」
「えへへへへ」
「ちょっと!」
 ソファに押し倒されて、何度も何度もキスされる。舌が入ってくる気配はない。でも、キスのしすぎで唇が腫れそうだ。それに、あんまり強くない酒の臭いに、酔ってきた、かも……。
「あり? 未央〜?」
「……キスだけだからね」
「ん〜」
「んっ……」
 結局、渉くんは好き勝手にキスをして、そのままふらふらと立ち上がってスーツのまま寝てしまった。まったくもう、皺になる。
 夕飯を冷蔵庫に入れて、私は自分のアパートに帰るべく玄関に向かった。
 その翌日。渉くんからメールの着信があった。
『今日俺んちくんの?』
 そう言われたら尻尾振って行っちゃうのが悲しいかな初恋を捧げたサガ。絶対渉くんより私のほうが愛してるよね。向こうは大人だし、私は惚れた弱味があるし、もう最悪。
 渉くんの部屋のドアを開けて、夕食作りに取り掛かる。
 ほどなくして、ドアが開く音がして、渉くんの気の抜けた声がした。
「たでーま」
「お帰り」
「ん。今日はカレー?」
「うん」
 近づいてきた渉くんが、私の後頭部を掴んだ。何、と思っていると、不意打ちでキスをされる。
「な、何?」
「いや、なんとなく?」
「なんとなくでキスするの?」
「未央にはね」
「何それ……んっ」
 舌が入ってきた。軽く口内を撫ぜて、舌は抜け出し、最後に下唇を吸われた。
「なんなの!」
「俺昨日気付いたらスーツのまま寝ててさあ、未央、いた?」
「覚えてないの?」
「え、俺なんかやらかした?」
「やらかしたってほどでもないけど……」
 また渉くんがキスをしてきた。なんか、ごめんね、みたいな宥めるキスだった。
 渉くんって、絶対キス魔だと思う。


 END

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