お互いの気持ち 2


 ◆W

 ついうっかり、食事に気を取られて、いいよ、と軽く返事をしてしまった。
 未央が風呂に入っている間、先に風呂に入った俺は、テレビを見ながら悶々とする。
 大事にしてあげたいし、思い出に残るような初体験がいいよな、やっぱり。痛い思いはさせたくないけど、俺たぶんそこまで上手くないし……。あーあ、これが野村だったら万事上手くやるんだろうな……。
 でも、抱きしめて寝るにもそろそろ限界がある。未央はスレンダーなくせに意外と胸あるし、風呂上がりはノーブラだし。身体火照ってるし、髪の毛濡れてて色っぽいし。俺のスウェットぶかぶかなの可愛いし。すっぴんってのがまたこう、ぐっとくると言うか……。
「渉くん?」
 悶々としていると、いつの間にか風呂から出てきたらしい未央が不思議そうに俺を見ている。
「あ?」
「どうしたの? なんか悩み事?」
「いや……まあ……未央は、さ」
「私?」
「その……あー、なんていうか、思い出とかにこだわるタイプ?」
「え? 何の話?」
「……だから、その……」
「なぁに?」
 やばい、未央がイライラしてきてる。いったいどう言えばいいんだ……!
「だから……初体験とか、に、夢を見てる? こういうのがいい、とか……」
「……え」
 ド直球で聞いてしまった。意味を理解した未央の顔が、真っ赤になる。か、可愛い……。もじもじしながら、未央がぼそぼそと呟く。
「……別に、渉くんなら……なんでも、いいけど……」
「……」
 つられてこちらも頬が熱を持つ。つまり、未央的にはいつでもオッケーってこと?
「じゃあ、今日、する?」
「あ、え、その……」
 未央が俯いて、力なく頷く。……ちょっと強引だったか……待てよ?
 俺はある重大な事実に気づいてしまった。
「今日は駄目だ」
「え?」
「ゴムがない!」
「……」
 そうだよ、三年間ご無沙汰だったんだよ、俺! すっかり気ままな独りもん生活に慣れちゃって、ゴムなんか用意してなかったよ!
「まだ、コンビニ開いてるよ……?」
「それは、未央は今日したいってこと?」
「ざっけんなくたばれ!」
「ご、ごめん」
 俺のアホ!
 ……ところで、実際今からゴムを買いに外に出るのも、興ざめと言うかなんと言うか、あれだよな。
「今日は我慢する」
「渉くん、我慢してたの?」
「え、まあ、うん」
「はあ……」
「未央?」
 未央が、深くため息をついた。
「私だけじゃなかったんだ」
「へ?」
「渉くんには性欲がないのかと思ってた」
「んなわけあるか! まだ枯れてねーよ!」
「うん、よく分かった。今日は一緒に寝るだけにしよ?」
「あー、うん」
 一緒に寝るってのがけっこうキツイって、この子知ってんのかな。まあ、いいか。明日こそ帰りにゴム買っておこう。
「未央、寝るのは髪の毛乾かしてからな」
「あ、うん」
 今日も据え膳……トホホである。
 未央には自分は据え膳であるという自覚はあるのか、まったくもう。しかし可愛いから何も言えない……トホホである。


 END

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