お互いの気持ち 1


 ◆M

 渉くんと思いが通じた(好きだとは言われていないので通じたかどうかはほんとうは定かでない)日から一ヶ月。私たちは、表面的には何も変わっていない。
 ただ、引っ越してしまったので、毎日渉くんの家に通うわけにはいかず、むしろ会う回数は減ったくらいだ。あと、以前のように呼び捨てで呼んでくれるようにはなった。
 そう、それ以外何も、変わってない。
「ただいまー」
「お帰り」
 今日はバイトがないので、渉くんの家にお泊りするつもりで来た。付き合って一ヶ月。そろそろ……と言うかとっとと、と言うか……。
 渉くんは性欲ないのかな? 処女なのにこんなこと思う私がおかしいのかな?
「今日の晩飯なに?」
「鶏のから揚げ」
「未央のから揚げ美味いからなー。ついつい食べ過ぎて……最近ちょっと太ったんだよな……」
 渉くんが、自分の腹を撫でる。……渉くんは食べてもあまり太らない体質だ。うらやましい。と言うか、これはカロリー低めの食事を要求しているのか?
「今日はそんなに作ってないよ」
「腹筋でもするかな……」
 私を無視して、着替えに寝室へ行ってしまった。まあ、いつものことである。
 ため息をついて油の中のから揚げたちを見つめる。ちくしょう。
 飄々としている渉くんの真意が見えない。たまにキスはするけど、それ以上のことはしてこない。そのキスも、唇が触れ合うくらいの軽いものだし。
 なんだか苛ついてぶすっと菜箸でから揚げを貫く。
「あー……疲れた」
 スウェットに着替えてダイニングテーブルにへたり込んだ渉くんは、童顔なので、高校生のように見える。
「はい、ご飯できたよ」
 から揚げを盛った皿をテーブルの中心に置いて、ご飯と味噌汁を出す。渉くんは、元気に食べ始める。
「ねえ」
「ん?」
「今日、泊まっていっていい?」
「あー、いいよ」
 食べるのに夢中になっている渉くんがなおざりな返事をする。……バスタオル一枚で風呂から出てきてやろうか……。
 いったいどうすれば渉くんに手を出してもらえるんだろう。直接本人に言ってみるか、したい、って。……なんか私変態みたいだ……。
「どした。元気ねーな」
「まあ、いろいろあるんだよ……」
「あ、そう」
 がっくりと肩を落として食事を再開する。
 渉くんって、なんか性欲薄そうだもんな……でもそれにしたって三年間ご無沙汰で、前は私相手に興奮してくれたし、……うーん……渉くんはどういうつもりなんだろう。

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