きみの手で初恋を終わらせる 2


「え?」
「だから、東京行くんよ、渉くん」
「……」
「お兄ちゃんがおらんくなると寂しいね?」
「……」
 東京? 当時小学生だった私には、地理は分からなかったが、福岡東京間はとても遠いことくらい分かる。私は、学校帰りにぼんやり考えていて、近所の人気のない小さな公園のブランコに座っていた。
 どれくらい座っていたのだろう。星空が見えはじめ、息が白くなる。はあっと息を吐いてブランコを微妙に漕いでいると、後ろから名前が呼ばれた。
「未央!」
「っ」
 振り向くと、渉くんが息を切らして膝に手をついていた。そして、ゆっくりと近づいてくる。
「お前、家にも帰らんでこげなとこでなにしよったい!」
「……東京、行くの?」
「はあ? おばさん心配しとるから、はよ帰ろ」
「……」
「なん、そんなへそ曲げて……」
「別に」
 渉くんは、私が座っているブランコの隣のブランコに腰かけて、息を整える。
「ったく……」
「……?」
「お前が帰るまで俺も帰らんからな」
「……死んじゃえ」
「……」
 私は立ち上がって、星空を見上げた。冬の大三角がきれいに見える。東京は空気が汚いと言うから、きっとこんなきれいな星空は見えないんだろう。でも、渉くんはそれを捨てて行く。
「帰る」
 渉くんが、歩き出した私についてきて、話しかけた。
「学校でなんか嫌なことあったんか?」
「何も、別に」
「なんでそんな不機嫌なん?」
「しゃーしいわ。渉くんには関係ない」
「……」
 私の口の悪さには慣れている渉くんが、頭を掻いて眉を下げた。何が私の機嫌を損ねているのか掴みかねているのだろう。原因が自分だと知ったら、彼はどんな顔をするのだろう?
 家までの道のりを歩きながら、渉くんは彼女と東京に行ってしまうんだな、私は失恋してしまったんだな、とひしひしと感じていた。

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