きみの手で初恋を終わらせる 1


 初恋は近所に住むお兄さん。
 なんて、少女漫画でも使い古されたような恋を、未だにしている。
 彼は、私がわざわざ追いかけてきたんだってことも知らなければ、私の恋心なんてまったく知りもしない。
 今までずっと妹の立場に甘んじてきたけど、私だって来年からは就活がはじまるし、いつのまにか恋人いない歴年齢になってるし、向こうは無防備にもてるし結婚適齢期だし、焦っていないなんて絶対に言えない。
 初めて彼を好きだと自覚したのは、小学生の頃だった。私が四年生の頃、渉くんは高校三年生だった。彼は当時付き合っていた彼女と同じ大学に進学するため、勉強に明け暮れていた。
 それを知ったとき、私は異様なまでにがっかりしてしまって、同時に失恋した。笑えない。
 小学四年生といえば女子がませてくる頃で、渉くんと一緒にお風呂に入ったり一緒に寝ている、とクラスメイトに言ったら、それはおかしいよ、と言われた。その日一日、その言葉について考えて、たしかにおかしい、という結論に達したので、私はその日からひとりで風呂に入るようになったし、渉くんに抱かれて寝ることもなくなった。渉くんは少し寂しそうな顔をしていた。
「なんで急にひとりで寝るとか言いよーと?」
「だって、変やろ。もう私四年生だし」
「……あ、そう……」
 痩せた身体を揺らしながら、渉くんは自分の家に帰っていった。とは言ってもお向かいさんだ。
 小さい頃から、男の子の遊びに連れて行ってくれて、私を邪魔者扱いしなかった渉くん。他の男の子にからかわれたりして泣いている私を慰めて、代わりに怒ってくれた渉くん。
「ママ、失恋した」
「知っとるよ」
「……」
 まるで本気に取らないママは、私の好きな人――ママの中では憧れの人――を知っている。渉くんに彼女がいることも、彼女と一緒の大学に受かるために予備校に通っているのも、知っていた。
 でも、知らなかったのだ、彼の志望校なんて。

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