ドルチェティック・カレー 3


「文句言うな。とっととチョコ出せ」
「へぇへぇ……」
 まさか今日という一日の終わりに女子大生からチョコ狩りなどという仕打ちを受けるとは……。
 俺は仕方なく、みんなからもらったチョコを鞄から出してテーブルに並べた。
「……」
 いくつか並んだ箱から未央ちゃんが取ったのは、例のゴディバ。お目が高い。それを両手で持ち上げ、どことなく険しい表情でそれを眺めて、それから俺をじとっと睨む。
「な、何……?」
「これ、本命でしょ」
「ちげーよどうせ義理だろ、ふつうに渡されたし」
「ふーん」
 ま、いいけど。なんて呟きながら封を切り、未央ちゃんが一粒口に含む。
 五粒くらい並んだそれは全部形が違って、俺はチョコの値段なんか分かんないけど、なんとなくマジで高そう、と思った。
「あっ、火つけっぱなし!」
 慌てて、なぜかテーブルに広げた箱を全部抱えてキッチンにダッシュする未央ちゃん。なんとなく気になって後を追うと、そこには想定外の光景が広がっていた。
「ちょっ、なに、なに!? 何してんの!?」
「えっ?」
 ゴディバをはじめ、包みを剥いたチョコレートを次々鍋に放り込んでいく未央ちゃん。鍋の中身は、においからしてカレー。なに、なになになに、嫌がらせ?
「チョコレートカレーだよ?」
「はい?」
「カカオ成分70%以上がいいとかなんとか書いてあったけど……ま、いいよね」
「ちょ、こら!」
 たぶんおいしいから、とリビングに押しやられ、だんだんと漂ってくるスパイシーな甘い匂い……。
 たぶん、ってたぶんかよ……。と言うか、お高いゴディバ……俺もひとつくらい食ってみたかった……。
 匂いに混じって鼻歌まで聞こえてくる。……ま、いっか。

 その後出来上がった『チョコレートカレー』は、甘かったし予想通りあまりおいしくなかった。
 一緒に食べていた未央ちゃんも、微妙な顔をしていたが、あえて「まずい」と言うことはしなかった。
 やっぱり、ホワイトチョコとかいろんなフレーバーのチョコを全部入れたのが間違いのもとだったんだよなあ、と思いつつ、一個くらい固形のまま俺の口に入ってもよかったのでは、とも思う。まあ、どうせ全部義理だしそこまで食べたかったわけじゃないので、気にしない。


END

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