ドルチェティック・カレー 2


 結局、その日の俺の戦利品は、ハルちゃんからもらったのと、受付の子の義理と女子社員数人の義理。なんでやねん、本命いっこくらい混ざってたりしないのか。
 鞄に突っ込んだ小さな箱たちが、俺が歩くたびに小さく音を立てる。
 あ、でも……広報課のあやかちゃんのはゴディバだったし、ちょっと期待してもいいのかな。――と言うか、ゴディバに対してお返しは皆と一緒でいいのだろうか。ちょっと悩むな。
 なんて、くだらない考えにふけってると、いつのまにかマンションの前。
 エントランスで暗証番号を入れてドアを開ける。
 そういえば……今日は未央ちゃんは来ているだろうか。仕事も長引かなかったから、今日くらい自分で料理してもいいけれど。たぶん未央ちゃんが置いている食材の余りくらいあるし。でも出来れば、あの美味しいご飯が食べたい。
 いやいや、クリスマスは偶然で、さすがにバレンタインに来るほど暇じゃあないだろう。あれで彼女もけっこう人気があるんだし。
 そう思いながら部屋のドアにキーを差し込んで回すと、空回りしたキー。
 いるのかよ。
 未央ちゃんって暇なんだな、と思いながらドアを開けて、帰ってきたことをアピール。
「たでーま」
「あ、お帰りー」
「未央ちゃんさ、こんな日にここ来るとかけっこう暇人でしょ」
「渉くん、今日も、まっすぐ帰ってきたんだね」
 エプロン姿の未央ちゃんは、にっこりと邪気のない笑顔で俺のハートをチクチクと攻撃する。はわわ、完全にブーメラン発言だった。
 未央ちゃん相手に傷つくのは実に不毛だと分かってはいるが、もう二十代も後半に差し掛かって、ここ二年ほど彼女がいない。焦りのようなものとあいまって、いろんなところが痛いのだ。
「はい」
「ん?」
「ん?」
 靴を脱いでコートを脱いだ俺に、唐突に手を出す未央ちゃん。
 チョコかと一瞬思ったが、その手のひらには何も乗っていない。
「チョコちょーだい」
「えっ?」
「ないとは言わせないよ?」
 いや、そりゃああるけれど。
 え、逆じゃない? 未央ちゃんは俺にはくれないわけ?
「OLからがっつりもらっといてさらに女子大生からも搾取しようっての?」
「さくしゅ」
「毎日ご飯作らせといてその上チョコなんておこがましいのよ、甲斐性なし」
「えー!?」
 たしかに飯はありがたい。インスタント類から脱出してからはなんか体調も心なしかいい。未央ちゃんとご飯を食べるのだって昔に戻ったみたいで普通に楽しい。
 でも、食費全部俺持ちなんだけど……ぶっちゃけた話、未央ちゃんここでご飯作るようになってから、家計助かってるだろう?

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