捻じ曲が理論 7


 調子に乗った……というかいつもの調子の渉くんには、何をどう弁解しても無駄だ。暖簾に腕押し糠に釘、起き上がりこぼしのようにへらへらとノーダメージである。今も、いくら否定してもはいはい照れんな照れんな、と軽く、実に軽ーく流されてしまう。
「……ある日突然、渉くんとはもう一緒に寝ない! と言われた時どんなに悲しかったことか……」
「……」
 たしか、クラスの子に何かの拍子にその話をしたとき、そんなの変だよ、と言われたのがきっかけだ。
 小学生の女子はませているから、男女のあれこれに敏感なのだ。
「あーあ。今の時期とか、湯たんぽ代わりであったかかったのになぁ」
「……じゃあ一緒に寝ようよ」
「おう、今日寒いしなあ。……ん?」
「なんか話聞いてたら懐かしくなっちゃった」
「……うん、俺も……。……あれ?」
 話の流れですらりと添い寝の約束を取り付けた私、スーパーグッジョブ。
 会話の運びに、不思議そうに首を傾げる渉くんをよそに、お風呂借りるね、と笑顔で告げる。
「あ、うん、良いたい」
「……乾燥機の中のTシャツ着てもよか?」
「おっきかばってんよかと?」
「よかよー」
よほど動揺しているのか、方言が飛び出す始末だ。
 持ったままのスプーンを振りながら、目が点になっている渉くんをキッチンに置いて風呂場のドアを閉めると、向こうから「まじで!?」と独り言が聞こえてきた。
「まじだっつうの」
 鏡の自分に向かって舌を出す。Tシャツとパンツだけで風呂から出てやろう、と思ったのは、渉くんにはまだ秘密だ。

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