捻じ曲が理論 6


 ◆M

 これ見よがしに、じゃがいもたっぷりのシチューを席についた渉くんの前に置く。
 うまそう、と笑った彼に、許してもいいかな、と思った私は本当に救いようがない。
「なにそんな拗ねてんの」
「拗ねてないよ。馬鹿女とご飯してきたくせにまだ入るのかって呆れてるだけ」
「……そっちか」
「は?」
 顎に手を当てて、渉くんがわざとらしく唸って考えるようなそぶりを見せる。顔におうとつがないから、漫画みたいな顔になっている。
「……まあ、あれだな。寂しいなら寂しいと素直に言いなさい」
「はあ?」
「俺がいなくて寂しかったんだんだろ」
「頭打った?」
「ひとりじゃゴキブリもやっつけられない泣き虫未央だもんなー」
 とことん幸せな脳みその持ち主だ。
 ……まあ、でも、嫉妬だと気付かれなかっただけ、いいとするか。渉くんが鈍いのは小学生の頃から痛いほど身に染みて分かっている。
「そういや昔はさ、ゴキブリが出るとひとりじゃ寝らんなかったんだよなぁ」
「はぁ? ちゃんと寝てたし」
「覚えてねぇの? 渉くぅーん、未央のおうちにねっ、Gが出てねっ、寝てる時顔に乗ってきたらどぉしよおー……つって、俺の部屋に枕持ってきて一緒に寝たじゃん」
「いつの話してんのよ!」
 そんなのは小学校の低学年までだ。
 あの頃渉くんは高校生で、だっこして一緒に寝てもらった記憶もたしかにある。あるけれど。
「それに私そんなこと言ってないし!」

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