今夜の冷蔵庫 4


「……今、昨日も、って言ったよな?」
「…………あ」
 俺を振り返って、テヘッと舌を出す未央ちゃん。いや、どっかのお菓子屋のマスコットみたいで可愛いんだけれど、そのわざとらしさがものすごく腹立つ。
「どうやって入った……?」
「……窓から侵入?」
「ここ五階だよーマジメに答えようねー」
「……これ」
 ばつの悪そうな顔で未央ちゃんが出したのは、三本の鍵と子供向け番組の緑と赤のキャラクターのストラップがついたキーホルダー。
「これがうちの鍵、これがチャリの鍵、で、これがここの合鍵」
「……なぜここの合鍵が君のキーホルダーに?」
「………………あは!」
だからその、舌をしまえ、舌を!
「ハァ……どうせ、おふくろだろ?」
「……怒んないの?」
「今さらだろ」
「彼女とか……」
「……マジでケンカ売ってる?」
 きょとんとして、未央ちゃんが安心したように笑った。
 それは、なんだやっぱり彼女いないのか、という感じの笑みではあったが、なんとなく不快には感じなかった。
「昨日ね、クリスマスだし、昔みたいに一緒にパーティしたくって」
「……」
「それで……ご飯作って待ってたんだけど……一時過ぎても帰ってこないからさぁ」
 冷蔵庫を開ければ、これはほんとうに女子大生が作ったのか? と思うほどの豪華な料理。しかも、ローストチキン、ハンバーグ、パスタサラダ、野菜のグラタン、俺の好きなものばかり。
「ま、セーフだろ」
「え?」
「今日がクリスマス本番だし。今からパーティすりゃいいよ」
 野菜をたくさん使っていて目にも鮮やかな彩りの料理立ちは、仕事が不規則でまともな食生活を送れていなかった俺への配慮なのだろう。
 ありがとな、って言うと、未央ちゃんがはにかんで、どういたしまして、と呟いた。


 END

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