今夜の冷蔵庫 3


「せっかくのクリスマスに、彼氏ほっといていいの?」
「は? 彼氏いないし」
 帰り道を歩きながら、話題は自然と昨日今日のことに移る。俺が高校生や大学生の頃なんかは、彼女がいたらいたでデート、いなかったらそれはそれで、独り者同士集まってパーティを開いたりして、案外暇じゃあなかった気がするのだが。
「……さみしい子」
「仕事が恋人状態よりもマシだと思うけど」
「……俺の繊細なハートを傷つけないでくれる?」
「繊細? 渉くんの大根に剛毛の心臓が?」
「……」
 未央ちゃんは、可愛い顔してけっこう毒舌だ。暴言は吐くし、態度はわりと辛辣だし。
 そこそこのルックスのせいか、「そこがまたいいの!」などという血迷ったM男は少なくなかったけれど。俺は断じて違う、甘んじて受けているが興奮はしていない。
 マンションのオートロックをくぐり抜け、エレベーターで俺の部屋の階まで上がる。待て、なんでこいつついてくる。

「……?」

 いつ突っ込もうか思案しつつ、部屋に続く廊下に二人分の足音を響かせながら歩く途中、不意に未央ちゃんが思い出したように口を開いた。

「そーいえば渉くん、冷蔵庫見た?」
「は? れーぞーこ?」
「昨日の夜か、今日の朝」
「見てない。昨日は帰ってきて即寝たし、朝は寝坊してコンビニ朝飯」
「……やっぱり」
「なんだよ?」
「ねぇねぇ、家お邪魔していい?」
 人の質問には答えましょうって、小学校かそこらで習わなかったのか、この子は。キーを差し込んで回しドアを開け、玄関のすぐ横にある電気のスイッチを手で探って照明をともす。
「わっ、もう汚い! 昨日も思ったけど、ほんと汚い!」
「……ちょっと待った」
 家に上がったとたん、汚いを連発する未央ちゃん。
 いや、汚いのは事実だし、未央ちゃんに何か言われていちいち傷ついていたら身が持たないから、ショックを受けたりなんかしないけれど。
 聞き捨てならない。

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