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 秀哉は、正直なところ困っていた。昼食を教室で食べていると、青子がやってきた。その顔はどことなく沈んでいる。いつも能天気な青子にしては珍しい、と思ったのもつかの間、青子はまっすぐ秀哉の席の前までやってきて、彼の机の前の生徒の椅子に座った。

「どしたの? ミキなら青ちゃんの教室に行ったと思うけど」
「ミキちゃんが、私にきれいって言ってくれない」
「うん、……うん?」

 突然の告白に、さすがの秀哉も首を傾げた。とりあえず、詳しく話を聞くことにする。時はさかのぼり、青子がマスカラを買った数日前からはじまった。そして、いつもは無口、とまでいかないが多くを語らない青子が、喋る喋る、実によく喋る。秀哉はパンを食べる口を止めて、いつしか真剣に話を聞いていた。

「そしたら、きれいな女の人が」
「うん」

 秀哉は困る。青子の話の意図がまったく掴めないのだ。普段あまり話さないというか、必要なこと以外は言わない青子が、珍しく言葉を選ぶように、考えて話しているのだ。

「それで、ミキちゃんが、私のこと好き、って言ったんだけど、そんなこと言ってほしかったんじゃなくて」
「うーん」

 心の中で、秀哉は混乱していた。あれ、青子とミキは付き合っているんじゃなかったの? そう、秀哉の中では、青子はとっくにミキの恋人だった。今までそう思っていた。が、どうやら違うらしい。
 そして、話を聞くうちに、どうやら全貌が見えてきた。なぜ留年したのかと問いたいくらい、秀哉の読解力はすさまじい。

「青ちゃんはさ」
「……」
「ミキに、きれいって言ってほしかったの? なんで?」
「なんでって……」

 青子が言葉に詰まる。秀哉は、ここぞとばかりに畳みかけた。

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