「どしたの? ミキなら青ちゃんの教室に行ったと思うけど」
「ミキちゃんが、私にきれいって言ってくれない」
「うん、……うん?」
突然の告白に、さすがの秀哉も首を傾げた。とりあえず、詳しく話を聞くことにする。時はさかのぼり、青子がマスカラを買った数日前からはじまった。そして、いつもは無口、とまでいかないが多くを語らない青子が、喋る喋る、実によく喋る。秀哉はパンを食べる口を止めて、いつしか真剣に話を聞いていた。
「そしたら、きれいな女の人が」
「うん」
秀哉は困る。青子の話の意図がまったく掴めないのだ。普段あまり話さないというか、必要なこと以外は言わない青子が、珍しく言葉を選ぶように、考えて話しているのだ。
「それで、ミキちゃんが、私のこと好き、って言ったんだけど、そんなこと言ってほしかったんじゃなくて」
「うーん」
心の中で、秀哉は混乱していた。あれ、青子とミキは付き合っているんじゃなかったの? そう、秀哉の中では、青子はとっくにミキの恋人だった。今までそう思っていた。が、どうやら違うらしい。
そして、話を聞くうちに、どうやら全貌が見えてきた。なぜ留年したのかと問いたいくらい、秀哉の読解力はすさまじい。
「青ちゃんはさ」
「……」
「ミキに、きれいって言ってほしかったの? なんで?」
「なんでって……」
青子が言葉に詰まる。秀哉は、ここぞとばかりに畳みかけた。
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