5

「やきもちじゃないのかな」
「何が?」
「今までミキの近くには、きれい、って言うか、大人がいっぱいいたわけだ。それが、青ちゃんは自分では到底大人じゃないと思ってるから、ミキに対して引け目を感じてるんじゃないかな」

 首をかしげた青子が、ひけめ、とおうむ返しに呟いた。

「可愛い、でも、好き、でもなくてさ、きれいって言ってほしかったのは、たぶん、やきもちだよ」
「やきもち……」

 青子が一生懸命考えるように腕を組んで、うんうん唸り出した。おそらく青子の頭の中は、ショート寸前だ。秀哉は、紙パックの紅茶をすすりながら、のんびりと食事を再開する。あとは、青子が自分で考えて行動すべきである、自分の役目は終わった、と思っていた。ら、そうじゃなかった。

「青子」
「ミキちゃん……」

 そう。まだ、ミキをからかうという仕事が残っていたではないか。青子を探していたのだろう、少し息切れしているミキが、ずんずんと二人が座っている窓際の席に寄ってきた。青子は、不安げな顔で秀哉を見る。秀哉は大丈夫、と言うように頷いて見せたが、そのジェスチャーの意図が青子に伝わったかどうかは、はなはだ疑問である。

「青子、あのな」
「ミキちゃん、きらい」
「え」
「うわ」

 秀哉が顔を覆ったと同時に、ミキの動きが停止する。青子は、さっさと立ち上がってぱたぱたと駆けていってしまった。
 ミキは、きらいと言われたショックから身体はすぐに回復したが、頭は混乱していた。
 好きだと言ったら拒否され、追いかけていったらきらいだと言われた。もう俺はどうすればいいんだ。
 秀哉が、指を卑猥に動かしながら、ミキに呟いた。

「コレどころの話じゃなかったのね、純情くん」
「ぶっ潰すぞ……」


20120524
20160623

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