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「好きな奴なら、化粧しててもしてなくてもいいって、言ったろ」
「言ったねぇ」

 青子は、髪の毛の枝毛を探しながらそんなこともあったな、などと、あの時ミキをかっこいいと思ったことも思い出す。

「だから、青子が化粧してようがしてなかろうが、どっちでもいい」
「何それ」
「青子が好きなんだよ」
「……」

 青子がふわりと顔を上げた。その顔には何の表情もない。平凡な顔が余計平凡に見える、とミキは思いつつ、青子がミキの言葉を理解してくれたのか、それだけが気になった。

「……嘘ばっかり」
「嘘じゃ」
「ミキちゃんの周りは、きれいな人いっぱいで、私みたいなの、いないじゃん」
「あ?」

 ミキは、わけが分からなかった。青子に伝わったのか、伝わらなかったのか、それすら不明である。ああでも、嘘、と言われたからには一応気持ちは伝わったのかな、と思う。ということはだ。
 この女、俺の一世一代の告白を冗談だと思っていやがるな。
 ミキが青子の両肩を掴み、しっかりと目を見つめた。青子も、ぼんやりとミキを見つめる。

「青子」
「うん?」
「俺の恋人になれ」
「……」

 青子は、少し考えるようなそぶりを見せて、それから首を振った。

「そんなこと、言ってほしかったんじゃない」
「はあ?」

 青子は、抱えていた弁当を床に置き、立ち上がった。とぼとぼと教室を出て行こうとする青子をミキは呼び止めたかったが、言葉が出なかった。そして青子が教室の外に出て、どこかへ行ってしまうのを、じっと見ていた。

「何だよ、それ……」

 ミキは、どうしていいのか分からなかった。そんなこと言ってほしかったんじゃない、だと。ふざけるな、である。青子がミキに何て言ってほしかったのかなど、知ったことではない。ミキは、自分の言いたいことを言ったまでだ。人の告白をあの女、踏みつけやがって。
 それで恋心が冷めればいいが、ミキはとことん苦労を背負い込みたいらしい、青子の元気のない原因が知りたくて、たまらなかった。

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