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「はじめまして。青子の姉の春菜です」
「……っす」
「彼氏?」
「いや、違う」

 すばやく否定する。ちょっとでも言いあぐんだり黙ったりしたら、すぐに勘違いされる。というのは、青子とつるむようになって分かっていることである。この姉もおそらく人の話を聞かない類であろう、それなら、間髪をいれずに答えなければすぐに自分本位の思考に飛んでゆく。

「ふーん。松本といえば、あたしの元彼も松本って言うんだー」
「お姉ちゃん、彼氏いたの?」
「昔々の話よ。最近の男は軟弱で駄目」
「ふーん。レディースのころ?」
「うん、そうよ。ていうか、あれ以来あたし彼氏できてないし」
「お姉ちゃんチョコパイ食べる?」

 今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がするが、気のせいだろうか、気のせいであってほしいのだが。ミキは、恐る恐る聞き返した。

「……レディースって」
「食べない。今あたしダイエット中」
「あの」
「何?」
「レディースってまさか」
「ああ、青子に聞いてないの?」

 ミキの背中を、いやな汗が伝う。引きつる口元をなんとか鼓舞して、ミキは春菜の言葉を待つ。

「元ね! もう足洗ってるから! パンピ、パンピ」
「……」

 ピースサインとともに、春菜がぺろっと舌を出す。ミキは、青子が自分に最初から物怖じしなかった理由をようやく悟った。

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