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 久しぶりに、二ヶ月ぶりほどに、従兄がアパートに帰ってきた。ミキは、いそいそと荷物をまとめている従兄の背中にふと、そういえば同年代くらいに見えるなあ、と思い疑問を投げかける。

「あのさ、坂本春菜って知ってる?」

 そのとたん、従兄の動きが固まった。ぎいい、と音がしそうなくらい、ゆっくりと従兄が振り返る。その顔にははっきりと、恐怖の色が浮かんでいた。

「なぜお前がその名を……」
「友達の姉貴」
「はああ!?」
「な、なんだよ」
「お前今すぐその友達と縁を切れ!」
「やだよ」

 青子と縁を切るなど、まっぴらごめんである。が、この従兄の焦りっぷりには興味がある。ミキは、知り合いなの、と聞いてみる。

「知り合いも何も、俺を人間不信にしたのはアイツだ」
「え」
「その昔俺がまだばりばりの暴走族だったころにな……ちょっとひと悶着あったんだ……もうその名を俺の前で出すなよ」
「……」

 春菜の言葉が、頭の中で繰り返される。「あたしの元彼も松本って言うんだー」……。
 まさかな。と思いつつも、ほぼ断定的なその関係に、ミキはため息をつき、従兄ほどの奴を人間不信にさせる女って、どんな女なんだよ、というかこいつ人間不信だったのかよ今初めて知ったわ、とげんなりしたのであった。


20120524
20160623

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