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 落ち着かない、と思っていると、青子が戻ってきた。手にはチョコパイの袋を抱えている。

「ミキちゃん、チョコパイ食べる?」
「甘いもんはあんまり」

 青子が何か言おうとすると、携帯の着信音が鳴った。青子は、相手を確認して電話を取る。

「あ、もしもしー。うん、うん、傘持ってったの? あそう、あっ、今ねー……あれ? 切れちゃった」

 女の声が漏れ聞こえ、傘を持っていったかという青子の発言からして、姉だろうな、と思う。青子はぺたりとミキの隣に座り、チョコパイの封を開けて食べはじめる。
 一つ食べ終えて二つ目に手を伸ばした青子が、ふと呟いた。

「お姉ちゃん、今駅前なんだって」
「……俺、帰る」
「なんで?」
「いや、あの」

 心底不思議そうな顔で、青子が、もっといればいいじゃん、とのたまった。それに、と。

「それに、お姉ちゃんとミキちゃん、仲良くなれると思うなあ」
「なんで」
「ただいまー」
「あっお姉ちゃん!」

 ミキが固まっているのを放って、青子が玄関まで姉を迎えに行く。再び、部屋に取り残されたミキは、いきなり家族に紹介されるなんて心の準備できてない、などと意味不明なことを考える羽目になった。

「この靴誰の? まさか彼氏?」
「ううんー友達」
「青子も彼氏ができる歳になったんだねー」

 どうやら、姉も人の話を聞かない性格らしい。がちゃっとドアが開いて、青子と女が入ってきた。その女を見て、ミキは、うわあ、と思った。自分が想像したとおりだったからである。青子のような地味な顔立ちだが、身長は青子より十センチほど高い。髪の毛は青子と違い短い。知らない人が見ても、これは姉妹だと疑いなく言えるレベルである。
 そんな姉は、にこっと笑ってミキに挨拶した。

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