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 思いがけず、疑問に思っていたことの答えが意外なところで見つかることもある。
 ミキは、学校の裏にあるマンションの青子の住む部屋に通されて、青子から信じられない言葉を聞かされた。

「うち、お父さんもお母さんもいないから、くつろいでー」
「……」

 ミキの脳内で混乱がはじまる。親がいない、だと。つまりこの部屋には俺と青子しかいないということだ。そんな状態の家に俺を上げたってことは、それなりのことをしても許されるよな? いや待て青子だ、何も考えずに俺を連れてきたんだ間違いない。でもここで手を出さなかったら男が廃る……いやいやいや。

「共働き?」
「ううん。死んでんの」
「あ?」
「お父さんは、私が生まれる前に病死してー、お母さんは事故った」
「……そうか」

 飄々とそんなことを言っているが、きっとさびしいのだろう。ミキは、無理やり邪な気持ちを追いやった。

「で、お姉ちゃんと二人暮らしなんだけど、今仕事中だから」
「ふうん」

 青子に姉がいるのを初めて知ったミキは、ぼんやりとその姿を想像してみる。青子の身長が高くなっただけの女を脳内に描いた。廊下を歩いていた青子が立ち止まり、そこにあったドアノブを握って中に入る。ミキは何も考えずにそれに続いて、はっと我に返った。
 そこは、何と言うか、ミキが想像していた青子の部屋、とはだいぶ違った。もっと汚いかと思っていたが、意外ときれいに整頓されている。しかし物が多いのか、若干ごちゃごちゃしている印象はある。自然と、部屋を見回す感じになるが、ベッドでふと目が止まる。朝が弱いと青子は言っていた。たぶん、遅刻しそうになって、ベッドを整えずにそのまま出てきたのだろう、タオルケットがぐちゃっとなっていて、いかにも、起きてそのまんま、という雰囲気だ。正直なところ、きれいにベッドメイキングされているベッドより、いやらしい。

「その辺座っててー」
「あ、ああ……」
「なんかお菓子持ってくる」
「いや、いいけど」
「なんかあったかなー」

 ドアが閉まり青子は廊下の向こうに消え、ミキは部屋に取り残された。なんとなくそわそわして、ミキは床にあぐらをかいて座ったが、ベッドに目が行くのは男のさがである。窓の外は相変わらずの豪雨だ。

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