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 うららかに晴れた午後、昼休みのことだった。ミキと秀哉は例によって理科室でぷかぷかとタバコをふかしていた。この理科室は、職員室から死角になっていて、そしてミキたちが持参している消臭ビーズのおかげでにおいもつかないしそもそも理科室本体はさまざまな器具が置いてある準備室と違いにおいの付着しやすい布製品がない。つまり絶好のタバコスポットだった。こういう悪いことは、目立たないところでやるべきであるから、教師は裏庭などのチェックは怠らないが、この堂々とした喫煙は意外と目に付きにくいのだ。

「最近雅美さんとどうなの」
「あー、別れた」
「なんで」
「知るか」

 ミキは、昨晩どうも寝付けずに徹夜していたため、大変機嫌が悪かった。そして、喫煙を早々に切り上げて保健室へと向かった。
 午後の授業は、さぼろう。そう思いながら、保健室のドアを開けたが、保健医がいない。これはついてる、と思いつつベッドのほうへ向かうと、すさまじい勢いでドアが開いた。

「先生怪我した!」
「……」
「あれ、いない」

 そこには、膝からだくだくと血を流す女が息を切らして立っていた。無意識で上履きの色を見る。赤ということは一年生か。いや、今は自分も一年生か。

「勝手にやっちゃうもんね」

 ミキの存在などまるで無視で、その女は水道で血を洗い流しはじめた。

「いったたた……」

 ミキは、ベッドのカーテンに手をかけたまま固まっていた。なんだこのちんちくりんは。
 実際のところ、別に彼女が特別背が低いわけではなく、ミキが高すぎるだけだったのだが、とにかくミキにはちんちくりんに見えたのだ。
 さらに、水道のシンクに片足を乗っけているおかげで、パンツも丸見えである。ミキは思わず嘆息する。女としてどうなんだよ、これって、などと思いながら、いそいそとカーテンをしゃっと開けてベッドに寝転んだ。

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