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 その日の放課後、青子はミキを探していた。今日はミキが青子の家に行くと言っていたから、てっきり教室にミキが迎えにくるものと思っていたのでしばらく待ったのだが、ミキはこない。ミキのクラスに行ったが、誰もミキの行方を知るものはいなかった。
 というわけで普段なら放って帰るところだが、なんとなく気になったので校内を探索していたのである。ミキのいそうな場所を探す。職員室に保健室にトイレに……。

「んー」

 男子トイレを覗いて、ぎょっとした顔の男子生徒を華麗に無視し、青子は首をひねった。どこにもいない。
 三階の廊下をとぼとぼ歩いていると、ふと青子の視界に秀哉の姿が一瞬入った。秀哉ならミキの居場所を知っているかもしれない、と思いそれを追いかけると、秀哉はどうやら図書室に入っていったようだった。青子も、後を追う。しんと静かな図書室には、誰もいない。秀哉さえも、だ。

「あれ……」

 青子がきょろきょろしながら、ふとドアが開いたままの司書室を覗くと、そこに秀哉がいた。声をかけようとして、青子ははっと押し黙る。
 秀哉はひとりではなかった。誰か、女性を抱きしめている。目を閉じて秀哉の腕の中にいる彼女は、青子の知っている顔ではなかったが、どうも生徒ではないみたいだ。私服を着ている。

「……」

 と、青子は足元のダンボールを蹴ってしまう。びくっと肩を震わせた二人が青子のほうを見た。

「……青ちゃん」

 秀哉が、慌てて抱擁を解いて両手を肩の辺りまで上げた。自分は何もしていない、という意思表示だろうか。青子は、ぼうっとその女性のほうを見て、首を傾げた。

「彼女?」
「いや、あの。違う……」
「違うの?」
「うん、まあ」

 青子がふっとその女性の首から下がっているものを見た。『司書・高崎』。

「ふーん。司書さんなんだあ」
「青ちゃん」
「何?」
「今見たこと、全部秘密にしてくれる?」
「なんで?」

 きょとんとした青子に、秀哉は頭を抱えたくなった。
 青子は青子で、誰にも話すつもりなどないのに念押しされる意味が分からなかった。秀哉が司書と抱き合っていたから、それがなんだというのだ。
 秀哉は言葉を選んで、青子に言う。

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