「あ?」
「ひっ」
女を見ただけで息を飲まれたが、そこはもう気にしない。
「なんで」
「えと、体育の時間に転んで怪我して……あれ、そういえば、絆創膏もらってくるだけなのに、遅いなあ……」
女も若干戸惑ったようにそう呟くが、ミキの耳にはもはや聞こえていなかった。
急ぎ足で、保健室に向かう。青子が怪我だと。なんだって。
「青子っ」
「あっ、ミキちゃん」
保健室のドアを壊さんばかりの勢いで開けて名前を呼ぶと、実にのんきな声が返ってきた。そしてミキは、そののんきさにそぐわない、青子の状態を見て取った。
「それ……」
「なんかねー、血止まんないの」
保健医はいないようだ。昼休みにここを留守にするなどなんたる怠慢、と思いつつ、ミキは青子のもとへ駆け寄る。
出血量は微量だが、たしかに青子の膝からはだくだくと血が流れ、止まっていない。まさか、じっと見ていたら血が止まるとでも思っているのかこの女。
「貸せ」
「いたっ」
消毒薬を染みこませたコットンを傷口に当てると、青子の顔が歪んだ。そのままてきぱきと止血して大きめの絆創膏を貼ってやると、青子がにこーっと笑った。
「大丈夫か?」
「んー!」
そういえば、青子と初めて会ったのも、保健室だった。と、ミキは回想する。意識は再び、昔のことへと飛んでいく。
初対面で怖がられなかったのは、たぶん青子が初めてだ。
「飯食うぞ」
「うん」
立ち上がって、ミキはすたすたと出口に向かう。ついてくる青子は、少し足を引きずっている。
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