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 思えば小さいころからこうだった、とミキはなんとなく思う。

「ひいっ」

 廊下ですれ違った女子の塊に何とはなしに目を向けると、それに気づいた一人が悲鳴を上げ、それにつられてほかの女子たちも、逃げるようにミキから離れた。
 別に睨んだわけではない。ミキにとっては、ただ見たに過ぎない。ただ、それだけで避けられる。
 思えば小さいころからこうだった。
 成長が早く、小学校に入学した時点ですでに高学年と間違われていた。中学校に入るころには大人とほぼ変わらない体躯を手に入れた。
 ついでに言うと、目つきが悪いのも生来のもので、赤ん坊のミキを一目見た祖父は、「なんちゅうふてぶてしい赤ん坊だ」と嘆いたらしい。
 まともな友達ができたことがない。常に恐れられていた。気づけば周りは、徒党を組んで悪いことをする連中であふれていた。

「……あほくさ」

 そこまで思い出してミキは、何を感傷に浸っているんだ、と思い首を振る。
 しかし、そうしたら思考が止まるのかといえばそうでもなく、ミキの思いとは裏腹に脳裏では過去をなぞる。
 ミキを恐れないのは、家族や従兄や、年上の女たちだった。早々と女遊びを覚えたミキは、勉強もせず夜遊び三昧で、親を泣かせたものだ。
 視線だけで人を殺すことができるとか、そんなありえない噂話もついてまわった。さすがに視線だけで云々は比喩だが、人を殺したことがあるんじゃないかという噂話のほうは、徐々に真実味を帯びていった。
 んな馬鹿な。そんなことしてたら今俺はここにいない。
 そういうことを言いたかったが、口下手で無口なミキは、誰相手にそれを否定すればいいのかも分からず、噂話をほしいままにしていた。
 ということをとうとうと思い出していると、青子の教室のドアの前に着いたことにも一瞬気づかなかった。ミキは、通り過ぎてしまうすんでのところで気がついて、慌てて立ち止まる。

「青子」

 がらっとスライドドアを開けて青子の名前を呼ぶが、返事がない。ぐるっと見回すと、固まった生徒たちの中に、青子の姿がない。
 おずおずと、ミキの中で「いつも青子と一緒にいる女」という認識のある女が近寄ってきて言った。

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