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「青子、帰んぞ」
「うん」

 クラスメイト達はその光景を見ないふり、ないことのふりをしながらも気にしていた。何せ、学校一のワルである松本ミキと、学校一の……学校一の平凡女である青子がつるんでいるというのはいかにもおかしな話で、きっと何か事情があるに違いないとみなが思っているからである。
 たとえば青子がミキに何か弱味を握られパシリとなっているとか。いやそれはないだろう。ミキが青子にかいがいしく世話をしている事例は多々目撃されているが、青子からミキに何か行動を起こしているというのは誰も見たことがない。
 じゃあまたたえとえば、逆に青子がミキの弱味を握っているとか。これはほんのりと信憑性が高まるが、ないだろう。だって青子だ、人様の弱味を握ってどうたらこうたらするような女ではない。
 それではたとえば……。
 そう、平たく言えば、みな意味不明なのである。ある日突然、ミキは青子のクラスを訪れるようになり、昼休みはどこかに拉致していく。そして青子は満足げな顔で帰ってきて午後の授業を受け、放課後も一緒に帰ろうと彼は誘いに来る。
 もしや、ふたりは何がどうなったか知らないが、恋仲にあるのでは。そう思う人も少なくない。そしてその少なくないうちから勇気ある精鋭が青子に事の真相を尋ねたこともある。しかし青子の答えはこうだ。

「え、ないない。ミキちゃん、ちょう美人の彼女いるよ」

 その発言内容の真偽に関しては誰も学校一のワルに面と向かって聞くことなどできないので未確認だが、少なくとも青子とミキは付き合ってはいないらしい。
 とするともうわけが分からない。なぜふたりはつるんでいる? もしや友達、馬が合うとか?
 ふたりが去った教室は、水を打ったように静かだった。

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