3

 青子はぼんやりと窓の外を眺めていた。

「何見てるの?」

 振り返ると、クラスメイトの男が不思議そうな顔をして青子を見ている。青子は口を開こうとして、ミキから言われたことを思い出して首を振った。

「え?」

 そのしぐさを疑問に思った男は首を傾げたものの、青子はそのまま窓の外に視線を戻してしまった。
 わけが分からない、と思っている男の背後から、今度はクラスメイトの女が青子に問いかけた。

「青ちゃん何見てんの」
「理科室から煙出てるのー」
「ふうん。なんで田辺のこと無視したの?」

 女が、男のほうを指差した。男もうんうんと首肯している。青子はもう一度そちらを振り返り、下唇に人差し指を当てて唸った。

「んっとねー、ミキちゃんがほかの男と喋るなって言うからー」
「松本くんが」
「うん、そう」
「なんで?」
「たぶんあれミキちゃんだよねえ」

 自分の言いたいことだけ言ってもうすでに人の話など聞いていない青子は、理科室から出る煙を見て呟いた。そういえば、理科室から煙、を軽く聞き流したが、それってけっこう重大なことなのでは。

「タバコ、やめればいーのに」

 青子が呟き、ふたりはその煙は松本ミキが理科室で悪いことをしている証拠であることを知った。そして、窓から覗き込むと、たしかに理科室からぷかぷかと安穏とした煙が出ている。

「先生に言わなくていいの?」
「なんで?」

 青子が心底不思議そうになんでと問う。だって、と女が口ごもると、青子は呟いた。

「いーの。将来ハゲるのミキちゃんだから」

 喫煙とハゲることの因果関係が見当たらない。青子がのんびりとその煙を観察しているのを、ふたりはすっかり意気消沈して見ていた。

 ◆

prev | list | next