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「や、ミキちゃん」

 ひ、と青子が息を呑んだ。丁寧に丁寧に自分を扱ってくれるミキはそこにはいなかった。乱暴な前戯のあとで、いつもなら「いいか」と聞いてくるのに、今日は何も言わず侵入してきた上に、青子のことを気遣いもせずに、動き出す。それでも、青子の体は、反応する。青子が怖いのは、その自分の反応ではなく、かといって自分勝手な動きをするミキでもなかった。
 青子が怖かったのは、ミキの、瞳だった。乱暴に自分を扱っているくせに、泣きそうな目をしているのだ。自分は、ミキを悲しませるようなことを、したのだろうか。それが怖かった。

「あ、あ、ミキちゃ……!」

 は、とミキの熱い息が青子の首筋にかかる。その声も、どことなく震えているように聞こえてしまって、青子はますます困惑した。

「ミキちゃん」
「……」
「ミキちゃん」
「…………何」

 ミキが、ふと動きを止めて、自分の前髪を掻き上げて目を細めた。青子は、ミキの顔に両手を伸ばした。そのまま、するりと頬を撫でる。ミキの顔がくしゃっと歪む。どう見ても青子を睨みつけているが、青子には、何か訴えているような視線に感じた。

「どう、したの?」

 荒い息を隠しもせず青子が聞くと、ミキの腕が青子の背中に回り、抱きしめられた。

「わ」
「ごめん」
「え?」
「痛いよな」

 ミキが、青子の中から這い出ていく。青子がきょとんとしているうちに、ミキは半脱ぎだった自分の制服のズボンを上げて、ベルトを締める。それからワイシャツを着た。

「え、え?」
「痛いところ、ないか」
「……」

 いつものミキに戻った。と一瞬青子は思ったが、すぐにそうではないと思い直す。自分のほうを一切見ないのだ。

「痛いところ、ないか」
「ない……」
「そうか」

 タオル持ってくる、と一言呟き、ミキはベッドから立ち上がった。青子は、慌ててそれを阻止しようとミキのワイシャツの裾を引っ張った。

「ミキちゃん」
「……」
「ねえ、何隠してるの」
「……」
「ミキちゃん」
「……お前さ」
「うん?」
「俺のこと大好きなんだよな」
「うん」
「秀哉のことも大好きなんだよな」
「うん」
「だったら、ここでお前とこうしてるのは、秀哉でもいいってことだよな」
「うん?」

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