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「あれ取ってー」
「……お前、俺をなんだと」
「取って取ってー」
「無理なもんは無理」

 ミキは、特別UFOキャッチャーが得意なわけではない。むしろ苦手なほうだ。よって、青子が取ってと連呼しているあの人相の悪いウサギは取れない。なんだあのウサギ、囚人みたいな服着やがって、とミキがウサギを睨んでいると、青子がシャツの袖を引っ張った。

「プリクラ撮りたいー」
「それはマジで無理」
「なんで? UFOキャッチャーが取れないのは分かるけど、プリクラ撮れないのは分かんない」

 すさまじいくらいに正論である。
 いつも、ゲームセンターに来るたびに青子にプリクラを撮りたいと言われ続けているが、ミキはかたくなにそれを拒否し続けてきた。理由は簡単、写真が嫌いなのだ。自分の人相が悪いことは分かっているし、記念と称して残す趣味もない。

「ミキちゃんの意地悪」
「あのなぁ」
「撮ってあげればいいのに」
「ねー」
「……秀哉」

 途中から話に入ってきたのは、偶然ゲームセンターの前を通りかかった秀哉だった。ミキは、お前の顔と俺の顔を交換するなら撮ってやってもいい、と心の中で呟いた。狐の面のような顔をした秀哉は、別に人相は悪くないし、むしろなんとなく人好きのする顔立ちだ。ミキはため息をつく。

「幸せ逃げるよ」
「んなもんもともとねえよ」
「日々の小さな幸せに気づけない人って可哀相」
「黙れ」

 からかうような声にしっしと人払いするように手を振ると、秀哉はにやりと笑って青子に手を振った。

「またね。今度は俺とプリ撮ろうね」
「うんーばいばい」
「……」
「ねーミキちゃん」

 くいくいとミキのシャツの裾を握って揺らす青子は可愛い。願いならなんだって叶えてやりたいと思うほどに可愛い。だがしかしプリクラだけは、無理だ。ミキが無視してウサギと睨み合っていると、青子がむくれはじめた。

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