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 ミキは今日も、青子の背中を撫でている。正確には、背中の少し下の腰近くを、だ。ずっと、スタンガンの傷痕を気にしていた。

「ミキちゃん、くすぐったいよ」
「今薬塗るから我慢しろ」

 頬の腫れも引いたし、蹴られた腹部のアザも消えた。唯一、やけどは長引くのだ。
 社会化準備室で、背中にオロナインを塗られている様は滑稽だ。そもそも、こんなところで背中を出すなんて、少しそわそわする。
 そういえば。

「ミキちゃん、最近理科室行ってないね」
「あ?」
「ひでぽんと、タバコ吸ってないの?」
「……お前がにおいがやだって言うから」
「そんなこと言ったっけ?」
「……」

 言ったような気もするし、言ってないような気もする。そんな無責任な青子の答えに、ミキはがくっと肩を落とした。

「まあ、いいけど」
「もう吸わないの?」
「別に吸わなきゃ生きてけねーわけじゃねぇし」
「あ、ちょうちょいる」
「……」

 青子の視線をミキが追うと、たしかに、窓から入り込んできたのかちょうちょ……蛾がいた。ひらひらと飛ぶ蛾を目で追う青子を気にせず、ミキは青子のシャツをスカートに入れた。

「終わった」
「うんー。眠い」
「夜ちゃんと寝たのか」
「うん。寝たよ」

 床にうつぶせに寝そべって、青子がいちごみるくを吸う。パックを置いて、ころころと転がった。パンツがちらちら見えるのが目の毒すぎて、ミキは俯いた。

「ねーむーいー」
「我慢しろ。午後の授業まじめに受けろよ」
「ミキちゃんがそんなこと言うなんて!」
「馬鹿にしてんのか」
「ねーねー、今日ゲーセン行こうよ」

 まったくの無視である。

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