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 鏡を見る。頬の腫れはほとんど引いた。学校に行ったら、どうしたんだまさか松本にやられたか、などと大騒ぎされたため、青子はちょっとうんざりしていた。ミキは、自分に手を上げることは絶対にしない、と青子は信じている。なんとなく、そういうことは分かるのだ。
 ただ、姉にもミキにも言っていないことがある。

「青子ちゃん、だっけ?」
「……あ」

 あの女に声をかけられて、駐車場までなんだかんだと誘われてついていくと、背中の少し下辺りに激痛が走り、体に力が入らなくなった。そしてそのまま車に乗せられた。気を失っていたわけじゃないが、女が自分の携帯を使ってミキに連絡しているのも分かっていたが、声は出せなかった。春菜に、「知らない人についていったら駄目」と日ごろ言われていたのを受け流していたことを、苦々しい気持ちで思い出す。

「さて……もうすぐ、ミキが来るよ」
「……う」
「付き合ってるって、ほんとなのね。ミキ、声が怖かった」

 きゃはは、と女が笑うと、周りの男たちも笑った。

「別れてよ」
「……え」
「ミキをうちのチームに入れたいの。あんたがいると邪魔なの」

 チーム、という単語に、ああ、そうなんだ、と思う。しかし、春菜が「苦労するから、あんたは絶対グレちゃ駄目よ」と時々愚痴のように言っていたし、実際記憶に朧だが、母親が死んでから春菜が傷だらけで帰ってきたことがあったのを思い出して、首を振った。

「何? この子生意気」
「……」
「何よその目、むかつくんだけど!」
「っ!」

 パチンと、強く頬を張られた。鼻から何か粘度の高いものが伝う感触がした。鼻血かな、と思う。
 その鼻血も乾いたころ、ミキが来た。男たちを殴り飛ばし、危険も顧みず自分を助けてくれた。春菜も来てくれた。
 春菜は、青子の頬を叩いたのは誰かを気にしていたが、言わなかった。あの時春菜に凄まれて男たちが動けなかったのは、怖かったから、だけではなく、自分がやったのではなかったからなのだ。



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