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「あ、ミキくん」
「っす」

 青子を送っていった帰り道、春菜に遭遇した。先日彼女の恐ろしい一面を見てしまったミキは、なんとなくやりづらくて、ぶっきらぼうに挨拶をする。別に、その顔を見ていなかったから愛想よく挨拶ができるかと聞かれればそういうわけでもないが。

「この間はありがとう」
「いや……自分が情けなくて」
「なんで? あの男どもやっつけたの、君でしょ?」
「そもそもは俺のせいでもあるし……」
「……ちょっと時間ある?」
「え」

 ミキは、公園のベンチに座っていた。春菜が缶コーヒーを二つ持って戻ってくる。受け取って礼を言い、ミキは春菜が話しはじめるのを待った。春菜はプルタブを起こし、ぐいっと微糖のそれを一気に飲んだ。ミキは自分のコーヒーを見る。微糖。飲めない。

「あたしさあ、レディースでぶいぶい言わしてたころさあ」

 ぶいぶいとはずいぶん古い言い回しである。

「正直、家族のこと嫌いだった」
「え」
「お父さんは、まあ早くに病死したからともかく、お母さんと青子のことね、大嫌いだった」

 意外な話だが、従兄がそう言っていたような気もする。しかし、本人から告白されても、やはり今の青子溺愛ぶりを見ているから、にわかには信じられなかった。

「そもそも、グレたのも、青子が生まれたからだし」
「……」
「よくある、下の子への嫉妬よね」

 ミキは一人っ子だからその気持ちはよく分からないが、弟のいる秀哉に聞いたことはある。「今はそうでもねーけどさ、弟生まれたとき、両親の関心が自分から弟に移ったって思って正直荒れたよ」。そのようなことが、姉妹でもやはり起こり得るのだろうか。

「今までお母さんの愛情独り占めしてたのが、いきなり全部取られて、って感じ。それが小学生の終わりくらいのころで、お母さんの気持ち引きたくて中学入って先輩に誘われてレディース入った」
「……へえ」
「ま、そんなことしてももちろん気持ち引けるわけもなくて、それで余計に組織にのめりこんで、の悪循環」

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