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 ミキは自分が情けなかった。
 青子の体に、痕が残っていたのだ。おそらく、スタンガンを当てられたのだろう、ポロシャツがめくれて見えた腰の辺りに小さなやけどの痕がある。

「ひゃ」
「いてぇ?」
「ひりひりする……」
「そうか」

 ミキがその痕を指で撫でると、青子はくすぐったそうに身をよじらせたが、抵抗しない。
 自分のせいで――というと少し違うしミキには防ぎきれない事態ではあったのだが――青子の白い肌に傷痕をつくってしまうことになった。それが情けなかった。青子は、ぐるっと首を回して、傷を見ようとする。

「あのね、それよりねー」

 今二人は、ミキの家にいた。青子がどうしても見たいと言ったミタニナニガシの最新作をツタヤで借りてきたのだ。青子が、ミキの手からするっと逃れて、DVDをセットする。

「ここはもう痛くないのか」
「うん、治った」
「蹴られたとこは」
「アザになったけど、もうそんなに残ってない」

 ほら、と青子がポロシャツをぺろっとめくって腹を露出した。ミキは、ここは見なければいけないところなのだが、思わず目をそらした。それからそろそろと視線を腹にやり、へその隣を撫でた。少し、黄色いアザが残っている。ミキはぐっと歯を食いしばった。

「悪かった」
「ミキちゃん悪くないよ? あ、はじまる」
「……」

 結論から言えば、映画はけっこう面白かった。いや、だいぶ面白かった。しかし、ミキはどうしても青子の傷が気がかりで、笑えなかった。と言うより、ミキはたぶん、あまり大笑いというものをしたことがないように感じる。青子がとなりで大笑いしていたが、それにつられることもない。

「おなかすいたー、ひひー面白かったー」
「なんか食う」
「おやつー」
「……」

 そんなものはあったっけ、と思いながら冷蔵庫をのぞくと、見覚えのないプリンがあった。パッケージに大きく油性ペンで「俺」と書いてあるあほみたいにでかいプリンだ。青子を見ると、きらきらした顔でそのミキの手にあるプリンを見ている。たぶん、従兄のものなのだろうが、与えていいものだろうか。いいよな、だってアイツ今いないし。

「おら」
「わーい」

 プリンをぱくぱく食べている青子を、ミキはじいっと見つめる。傍目に見れば、睨んですごんでいる風にしか見えないが、ミキは、優しい目つきで見つめているつもりだ。
 特大プリンはあっという間に青子の腹に消えた。

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