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「一番は、青子ちゃんと別れてうちのチームに来てくれることだけど」
「……」
「じゃあさあ、ここで、青子ちゃんの見えるところで、私にキスしてよ。ディープね」
「……断ったら」

 青子を囲んでいる男の一人が、バットをぶんっと振った。あのスイングで青子の頭を打つだと? ミキの顔はますます青ざめる。

「ミキちゃん」
「お前さっきからうるせえんだよ!」
「あうっ」
「青子!」

 男のひとりが、早く暴力を振るいたくてうずうずしていたのか、青子を蹴り飛ばした。座り込んでいた青子の体が、床に転がる。そこで、ミキの意識が真っ白になる。
 気づいたら、男たちが全員床に伏せていた。ミキは自分の呼吸が荒いことを自覚して、ようやく我に返った。青子に近づくと、彼女は一瞬おびえた顔をした。

「……俺が怖いか」
「違う」

 即答されて、でも、それなら、なんで。

「じゃあなんでそんな顔すんだ」
「だってミキちゃん、血が出てる……」

 青子の顔がくしゃっと歪んで、泣き出した。ミキは、青子の体に巻きついたロープを解いてやる。手首と足首に、色濃くロープの跡が残っていて、ぎりっと思わず歯噛みした。それから、青子の頭を撫でた。

「痛くねぇから」
「でも、でも」
「大丈夫か? 痛いところないか?」
「ほっぺ痛い……」
「家帰ったら消毒だな」

 青子を抱き上げて、出口に向かうミキの目に、ワカの姿が映った。耳まで赤くして、血走った眼でこちらを睨んでいる。

「ちょっとミキ、ふざけないでよ」

 その手にはスタンガンが握られている。ミキは、青子を降ろしてその盾になろうとした。と、ワカの背後に人影ができた。カラカラカラ、という何かものを引きずる音もする。もうこの場所に動ける人間は三人しかいないはずである。ワカが振り向くと、そこには春菜の姿があった。ただ、完全に、ミキの知っている彼女の顔ではなかった。

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