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「おい、テメーよぉ、うちの青子に何してくれたんだ、ああ?」
「だ、誰……」
「お姉ちゃん……」

 そういえば、春菜にメールをした。しかし、ミキには一つ誤算があった。元レディースの春菜からすれば、埠頭に青子がいるということがどういうことか、容易に予想がついたことである。
 春菜は、手に金属の棒を持っており、それをすさまじい力でワカのすぐとなりに振り落とした。

「きゃあっ!」
「青子の顔に傷つけたの、どいつだ、顔上げろや、おら」

 男たちは、あまりのその春菜のオーラに誰一人顔を上げられず、ミキに殴られて倒れた体勢のまま固まっている。

「お姉ちゃん、私大丈夫だよ」
「ああ? あんたが大丈夫でもあたしの怒りは収まんねーんだよ!」
「春菜さん、その辺で……」
「ミキ坊、甘いよ。こういう奴らは繰り返すんだ。ここで再起不能にしとかねーとまた青子さらわれっぞ」

 ミキ坊って俺のことか。と、春菜のあまりの変貌ぶりにあんぐりと口を開けたミキの手を青子がぎゅっと握った。

「お姉ちゃん、もうやめて! 嫌いになるよ!」

 青子がそう叫んだ途端、春菜の手から棒が滑り落ちた。そして、一気にどす黒いオーラが消え、今度はぐしゃっと泣きそうな顔になった。

「なんでそんなこと言うのぉー!」
「だって、あの人たち殴って警察に捕まるの、お姉ちゃんだもん」
「いいの、あんたのためなら刑務所入る!」
「やだ。お姉ちゃんと一緒がいい」
「青子ー!」

 呆然としているワカを無視して、春菜は青子に抱きついた。やはり、春菜が青子のことを嫌いだなんて、従兄の記憶違い、勘違いだな、とミキは思った。

「青子、帰るぞ」
「うん」
「ワカ、今度同じ真似したら、どうなるか分かってんだろうな」
「……」

 最後に、主犯に凄みを利かせることも忘れない。まあおそらく、春菜のような人間が青子側にいると分かれば、もうこんなことはしないとは思うが、一応だ。それにしても。

「春菜さん、ほんとに元レディースだったんすね……」
「やだ、恥ずかしい」


20120601
20160625

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