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 第三倉庫へ向かう途中、春菜に電話しようかどうか、迷う。「一人で来てね」。春菜に連絡したら、青子の身が危険かもしれない。そう思うと、どうしても通話ボタンを押せなかった。一応、メールだけしておく。「○○埠頭にいるそうです」。
 第三倉庫らしきプレハブにたどり着く。たしかに鍵も壊れている。ここに間違いないだろう。ミキは、扉を開けた。蝶番の軋む音に、中にいた人影がもそりと動く。

「あ、ミキ」

 ぱっと笑顔の女と目が合い、ミキは目を細めた。

「青子は」
「ミキちゃん?」
「青子」

 声がしたほうをぱっと見ると、腕も足もロープで縛られているようだ。暗くてよく見えないが、その周りには、数人の明らかに素行の悪そうな連中がにやにや笑いながら立っている。

「ほんとに一人で来たんだ、ふうん」
「青子を離せ」
「そんなに青子ちゃんが大事?」

 抵抗できない青子を前に、下手な行動は取れない。ミキは立ちすくんだまま、ワカを睨んだ。ワカはにこっと笑う。もはや、ミキの強面など慣れっこなのだ。今更凄まれたくらいでどうにかなるようなものではない。

「言っとくけど、私じゃなくあの子を選んだ代償は、大きいよ?」
「何のことだよ」

 青子のほうばかり気になる。ふと、雲が割れて太陽が顔を出し、倉庫の上部にある窓から光が差して、青子のいる奥が照らされた。そしてミキは絶句した。かろうじて名前が零れ出でる。

「青子……」

 抵抗したのだろうか、頬を張られて赤くなっている上に、鼻血が出ている。血は乾いていたが、痛々しいことに変わりはなかった。ミキは無言でワカの胸倉を掴んだ。

「きゃっ」
「ふざけやがって……殺す」
「私に手上げたら、青子ちゃんがただじゃ済まないよ」
「……」

 ちらっと青子のほうを見ると、鉄バットを持った男が、青子の頭にそれを添えている。あんなので殴られたら、青子の小さな頭は吹き飛んでしまう。ミキの顔が青くなる。ワカから手を離して、ミキは呟く。

「何がしたい」

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