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 またか、とミキは思った。

「もしもし」
「青子知らない?」
「いや……」

 休日である。ミキが家でだらだらしていたら、春菜から電話があった。またか、最近多いな、と思いつつ、電話に出る。そして、前回と同じ質問をされた。休日の青子の動向などこちら側が知ることができるわけがない。

「さっきコンビニ行くって言ったっきり、帰ってこないの」
「買い物長引いてるんじゃないすか」
「そうじゃないの。青子から電話があって、ミキくんがどうのこうの言ってて……」
「俺」
「よく聞こえないまま切れちゃって、リダイヤルしてもつながんなくって」

 ミキは、ソファでだらけていた体をしゃんと立たせて、とりあえず探してくるから何か分かったら連絡ちょうだい、と電話を切った春菜に、見えてはいないが頷いて、自分も外に出た。自分のことを言っていたなら、家の近くにきているかもしれないと思ったからだ。
 とりあえず、駅までの道を歩いていると、携帯に着信があった。ばっと画面を見ると、青子からだった。なんだ、心配させやがって。

「青子、お前今ど」
『残念、青子ちゃんじゃありませんでした』
「……あ?」

 電話の向こうからした声に、聞き覚えがあるようなないような感覚だが、とりあえず誰だ、と思い、ミキは眉を寄せた。青子の携帯からかかってきた電話に出ると、知らない女が喋っている。あまりいい状態ではないな、と他人事のように思う。

「お前誰だ」
「何? 忘れたの? ワカちゃんでーす」

 ワカ……ああ、思い出した。夏休み前に、青子と駅ビルの化粧品売り場で会った女だ。その女がどうして青子の携帯を持っている。いやな予感は、増幅していく。

「なんでお前が青子の携帯持ってる」
「怒らないでよ、ウフフ」

 いらいらしてきた。青子は今どうしているのか、それだけが気になる。苛立ちを隠せないミキのことなんか知ったこっちゃない、とでも言うように、女は笑い混じりに喋り続けた。

「最近ミキ、遊んでくれないと思ったら、こんなちんちくりんとつるんでて、しかも付き合ってるとか言うから、ちょっとむかっときちゃって」
「……」
「あっ、心配しなくても青子ちゃんは今おねんねしてるから。傷もつけて……ないよね?」

 誰に確認している?
 ぞっと背筋が冷えた。青子にもしものことがあったら。そのことだけが頭を支配していた。

「青子に代われ」
「だから、今寝てるんだってば」
「なんで寝てる」
「えっと、スタンガン? 気絶するとか、これ嘘だよねえ、目ぇ開いてるしなんか意識あるっぽい」
「ふざけ……っ」

 かっと頭に血が上る。そのまま携帯を地面に投げつけてしまいたい衝動に駆られたが、そんなことをしたら、青子の居場所の唯一の手がかりがなくなってしまう。ミキは、自分を落ち着けるために深呼吸をして、低い声で呟いた。

「今どこにいる」
「一人で来てね」
「今、青子はどこにいる」
「○○埠頭の第三倉庫。今は使われてないみたい。鍵も壊しちゃった」

 ぶちっと通話を切って、電車に飛び乗る。今日ほど電車が遅いと感じたことはなかった。ミキは、貧乏揺すりをしながら目を閉じた。青子、無事でいてくれ。思うことはそれだけだった。

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