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「青子」
「んー」

 ミキは、とりあえず赤ちゃんをあやすように、青子を持ち上げて膝に乗せて頭を撫でてみる。青子はすりすりとミキの胸板に寄り添って、鼻をぐずぐずと鳴らした。それから、また話しはじめた。

「私のせいだよね」
「……」
「家帰ってたら、お母さん死ななかった」
「青子のせいじゃない」
「……ミキちゃんは優しいね」

 ぎゅっと青子をかき抱きたい衝動に駆られる。そしてミキは実際そうした。いつも元気で、人の話を聞かない能天気な青子が懐かしくなった。早くいつもの青子に戻ってくれ。そう願いながら、ミキは青子を抱きしめた。

「青子!」
「あ、お姉ちゃんだ」
「ミキくん、ごめんね手間かけさせて」
「いや……」
「青子、帰るよ」
「はーい」

 ミキが腕の力を弱めると、青子はすぽっとミキの胸から飛び出し、春菜のとなりに並んだ。ミキはぼんやりと、従兄の言葉を思い出す。「あの女妹のこと嫌ってたし」……とてもそうは思えなかった。妹思いの優しい姉にしか見えない。
 ミキも立ち上がり、じゃあ、と二人に告げて駅のほうへと歩き出す。

「ミキくん、ありがとう!」
「ばいばーい」

 ところで、従兄は今回実家に帰ってきたわけだが、どのくらいいるのだろう。恋人とちゃんと仲直りするのだろうか。別に、いたら困るというわけではないし、そもそもあの家は従兄のものなので、居候の自分があれこれ言えたものではないのだが。
 のろのろと家に帰ると電気が消えていた。

「裕人?」

 従兄の名前を呼ぶが、返事はない。電気をつける。いない。テーブルの上をふと見ると、書き置きがあった。

「仲直りしたから帰るね……」

 ミキは思わず、はやっ、と呟いた。

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