呼ぶだけで震える生命
04

「もお、尚人ってば全然話聞いてないんだから。うちのクラスは性別逆転喫茶だよ」
「そーそ。尚人にはこれで接客してもらいまーす」
「帰る」
「こら!」
「後生だから死なせてくれこんな格好で接客なんか無理だから」
「大丈夫! 他の男子はキモいけど、純ちゃんと尚人はめちゃくちゃマッチしてるから!」
「嘘だ!」
「ほんとだって!」

 なぜ俺がこんな目に遭わなくてはいけないんだ。しかもこの制服うちの学校のじゃないし、セーラー服だし。だめだ死のう。こんな恥をさらして、明日から生きていけない……。

「尚人〜」
「え?」

 純太の間延びした声に振り返ると同時、ピロリンと間の抜けた音が控え教室に響いた。……今の音……。

「逃げたらこれアド帳に入ってるメルアドに無差別で送っちゃうからネ」
「……」
「純ちゃんナイス!」
「最悪……」

 純太に裏切られた。泣きたい。いや、もうすでにちょっと滲んできていないか?

「半泣きの尚人超美人」
「どきどきしちゃう!」
「男の子の気持ち分かるわぁ〜」

 好き勝手言ってくれやがって。女の子に男心なんて分かってたまるか。
 おとなしくなった俺に満足したのか、女の子たちは開店準備に取り掛かった。

「尚人のシフトは今日の午後だからねー」

 午後か……午後が来るまで俺はここから絶対出ない。出てたまるか。

「尚人ーオレも午後からだし、出店見に行こうよ」
「純太……お前ひとりで行ってナンパされて掘られて帰っておいで」
「うわ、ヒドッ」

 けらけら笑いながら、スカートのプリーツを揺らして可憐な純太は教室を出て行った。あの根性がうらやましいよ……というか純太は本当に女の子に見えるもんな、あれくらい似合ってたら俺だって外に出れたかもしれないさ……こんな背が高くて痩せた女の子なんかいないって……。
 ああ、俺ほんとうにかわいそう……。こんなに憂鬱な気分で迎える文化祭なんて初めてだ。