呼ぶだけで震える生命
01

「どんどんぱふー!」
「……わお」

 学校に行くと、そこはいつものそこではなかった。校門には、ベニヤ板で作った派手な飾りがブルーシートに保護されて鎮座しているし、校内はいつもの騒ぎの比ではない。
 なんだなんだ、お祭りか?
 と、思っていたら、黒地に金で胸のところに『理数の魂百まで』とプリントされたパーカーを制服の上に着て、右手にペンキ缶左手に刷毛を持っている恋人に出くわした。パーカーの裏には、これまた金字で書かれたスローガンの下に、恐らくクラス全員の名前。理数科であるせいか、男子の名前が目立つ。

「ねえ、これ何の騒ぎ?」
「……!」

 なんだ何そのムンクの叫びみたいな顔は。俺、何か変なこと言った?

「先輩、来週文化祭ですよ?」

 叫びの後ろからひょいっと顔を出した梨乃ちゃんが、いささか呆れたように教えてくれる。……文化祭?
 ああ。そういえば、そんな行事もあったな。
 待てよ、とするとこの騒ぎは準備によるもので、今日は授業はない?

「じゃ、俺帰るね」
「えええ!?」
「だって、俺のクラスが何やるかも知らないし……いてもいなくても同じでしょ」
「そんなことないですよう」
「じゃーね」
「先ぱーい!」

 クラス戻るよー、と比奈ちゃんを促す梨乃ちゃんの声を背中で聞きながら、タマとお戯れするかな、と俺はのん気にアパートまで戻ったわけだが。
 もっとちゃんと何をするのか知っていればよかった、と、数日後俺はめちゃくちゃ後悔することになる。