あなたの元へ還りたい
10

 拓人が気まずそうに、俺のもとへタマを持ってきた。

「……今回のことは、すまなかった」
「……」
「反省している。悪かった、スミマセン、陳謝」

 部屋のドアを開けると、タマで顔を隠して申し訳なさそうな声で知りうるだろう限りの謝罪の言葉を述べる。
 俺は、ため息をついてドアを大きく開けた。

「……ヒサト?」
「入らないの?」
「……」

 ぱあっと顔を輝かせた拓人は、いそいそと俺の部屋に入り込み、タマを床に解放した。
 俺がコーヒーをいれるためにキッチンのコンロにヤカンをかけると、手伝うの言葉とともにすっと横から手が伸びてポットを取った。

「……」
「……何?」
「あ、いや……どうしても、青い瞳はいやか?」
「は?」
「俺はきれいだと思うぞ、少し茶色ががっているところとか、複雑な色で」
「帰る?」
「……」

 そばに置いてあった包丁を拓人に向けると、慌てたように口をつぐみ黙々と作業をする。
 そのまましばらく無言でいると、お湯がしゅんしゅんと沸き出した。拓人はただのパックのドリップコーヒーなのに注意深くお湯を注いでいく。イタリア人のこだわりでもあるのだろうか。ただ、彼の淹れるコーヒーは豆から淹れているそうだが、ものすごく深みがあって美味しい。拓人の料理の腕前だけはほめてもいい。はっきり言って作るものすべてが美味しい。

「入ったぞ」
「ありがと」

 マグカップを受け取りローテーブルの近くに腰を下ろす。タマが擦り寄ってきたので首を撫でてやっていると、拓人がぽつりと呟いた。

「……本当に、すまなかった」
「もういいよ、過ぎたことだし」
「もっとあとになってから会わせるつもりだったんだ」
「あっそ。じゃあいい機会だから言っとくけど」
「?」
「もう二度とあいつと会う気はないから」
「ヒサト」
「あんなのは親でもなんでもない」

 これ以上その話をするなら帰れ、と暗に含ませて言うと、しょんぼりと肩を落とした拓人が、両手を降参の形に上げて分かったよと呟いた。
 それからカップの中のコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がる。

「これから仕事だ。じゃあな、また遊びに来る」
「ん」

 拓人がいなくなった部屋は静かになり、俺は目元に指を滑らせた。
 いくら比奈ちゃんにきれいで優しいと言われたって梨乃ちゃんに殴られたって、俺自身がこれを憎まなくなったとしても――そんなときが来るのかなんて思うが――、急には変えられない。

「……ちょっとずつでも、いいよね」
「にゃあ」
「髪の毛黒染め、やめてみるとか……」

 考えただけで怖い。今どき茶髪の高校生なんか珍しくないし、現に俺の友人や恋人や後輩はみんな染めている。俺が黒染めをやめて茶髪になったとしても誰も何も言わないだろうとは思う。でも、怖いのだ。もしも軽蔑のまなざしで見られたら、汚いものを見るかのような視線にさらされたら?
 ばかげてる。そんなことないって分かっているのに。情けない。