出会い誤解そして和解
07
騙された!
そう叫び出しそうに顔を歪めた比奈ちゃんの腕を掴んで身体を反転させる。俺のほうを向かせたところで、比奈ちゃんが唇を動かした。
「やっ、やだっ、やだー」
「……あらら」
ぽろぽろと泣き出してしまった。
「やだーっ。食べたらやだー」
「おーい……」
さて、困った。呼びかけてもさめざめと泣くばかり。
食べないで、食べないで、とめそめそする彼女は、どうやら意味を取り違えているらしい。……そういうふうに仕向けただろう人物には、大いに心当たりがあるが。
なんだか、可愛いな。小さい子みたいだ。
「やだ、やだ」
「……ふむ」
静かな空間に嗚咽が響いて、俺が掴んだ腕をぶんぶんと振りながらずるずると本棚にもたれて頭が下がっていき、つられて俺も中腰にならざるを得ない。座り込んでしくしく泣き続ける比奈ちゃんの身体を挟むように、膝をついて手を握る。その手を離そうと必死で抵抗するが、それはあまり力のない俺にすらあまり効果のない、些細なものだった。
静かすぎるせいなのか喉の震える音がいやに鮮明で、顔にこそ出ていないだろうけど、困った、焦った、という思いは蓄積してゆく。女の子を泣き止ませるには、どうしたらいいんだっけ。……ああ、そうか。
「……」
「泣かないで」
言葉を彼女の口内に押し込めるように囁きながら、ほんの刹那押し付けていた唇を離す。
見事に、涙も止まってぱちぱちとまばたきを繰り返す大きな瞳が、離れていく俺の顔をその目で追って、俺の目と唇を、視線が往復する。直後、火を噴いたように頬が真っ赤に染まった。
「うわ、すご」
「……」
「なんかさ、勘違いしてるみたいだけど」
「……」
「俺、女の子を食べたりしないよ?」
そうなの?
と、小さく呟く声がして、うんと頷くと、何やら考えるようにうつむいた。あ、つむじがふたつある。そんなどうでもいい発見をする。
飴色のふわふわした髪の毛は、至近距離からはシャンプーの甘い香りがして、そういう些細なことで女の子だな、と感じてしまう。ところで何を考えているのだろうか?