出会い誤解そして和解
08

「比奈ちゃん?」
「先輩のロクデナシー!」
「ぶっ」

 叫んだと同時、みぞおちに右ストレートが入った。
 そんなに痛くはなかったけど、まったくの無防備だったので思わずのけぞってしまい、その隙を縫って比奈ちゃんはぱたぱたと逃げていった。
 逃げられた俺はひとり、尻餅をついて手を後ろについて、比奈ちゃんが残していった数冊の本を見た。

「あら、桐生くん?」
「……あ、小枝ちゃん」
「小枝ちゃんって呼ぶなって何度も言ってるでしょうに。……相沢さん見なかった? 一年の小さい子なんだけど」
「あー」

 後ろから声をかけられ、振り向くと司書の小枝ちゃんがいた。
 ちゃん、って言ってももう三十をとっくに越えているだろうしそんな可愛く呼んでしまえるような柄じゃないのだが、まあいいんじゃないかと俺は思っている。女の子はいくつになっても女の子なのだから、というのが信条だ。

「逃げられた」
「ま。あなた相沢さんにまで手出したの」
「いや……そういうわけじゃ……」
「じゃ、罰として、相沢さんの分片付けておいてね」
「えーっ……」

 床に散らばった本を指差されて、しぶしぶそれを取って立ち上がる。
 俺が何したって言うんだ、たった一回キスしただけで殴られて、むしろ被害者は俺のほうじゃないのか?

「あ、それ終わったらこっちもよろしくね」
「えぇーっ」

 無残にもこき使われる俺の目に、それがきらりと窓から差し込む光を反射した。

「……これは」