あなたの元へ還りたい
07
驚いた顔で俺を見る、アイスブルーの瞳。どっ、と汗が噴き出す。耳鳴りがして頭がぐらぐらと揺れた。
気分が悪い。めまいがする。吐きたい。吐きたい。吐き出してしまいたい。過去が回る巡る。息が、苦しい。誰か、誰か助けて、誰か!
「あっ」
「来るなっ」
今上ってきたばかりの長い階段を駆け下りる。はやくここから逃げ出さないと、あの青を視界に入れてはいけない、はやく、はやくはやく、逃げないと、
「hei!」
ずる、と足を滑らせた。先日の雨で濡れたままの落ち葉を踏んだのだと分かったのは、まるで景色がスローモーションになったかのような視界の隅に映ったから。ゆっくりと後ろを振り返ると、驚いたようなアイスブルー。
意識が途切れるほんの少し前に頭に巡ったのは、比奈ちゃんのくしゃっとした笑顔だった。
左手が、燃えるように熱い。
ここは居心地がいい。どこかふわふわとした意識で浮遊していて、辺りは一面真っ暗だ。
俺の罪を咎める声がする。お前が生まれてきたから、小百合は死んだんだ。お前さえ生まれなければ小百合はまだ生きていたかもしれないのに。
そのとおりだね、父さん。ああ、違った、あなたは俺の父親じゃないんだった、ごめんなさい。
ごめんなさい、俺なんかのせいで、大事な人も失って、これからの人生に傷をつけて、ごめんなさい。
あなたの俺を罵る声は、心地いいよ。忘れさせないで、俺が生まれてきたことの罪。ちゃんと刻み付けて傷つけて、俺が忘れないように。
――……い……、
生まれてきたばっかりに、何人もの人間を不幸にした。俺の存在自体が罪なんだよね。分かってる、ちゃんと。
もっと蔑んで、でないと、俺はあの温かい場所で自分の存在価値を見出そうとするから。
そんなこと、許されないだろう?
あそこは俺のいていい場所じゃない。
――……ぱい、……い、
誰だろう、邪魔をするのは。
誰だろう、俺を呼ぶのは。
ねえ、頼むからほうっておいてくれないか。そのぬるま湯は俺のいていい場所じゃないんだ。錯覚してしまう前に突き放してくれないか。
俺はここにいたいんだ。罵られないと不安なんだ。俺にぬるま湯に浸かる権利なんてないんだ。
ねえ、そうだろう? 俺はこれからこの暗い場所で自分の罪を贖うんだ。
──せんぱい、
だからそんな優しい声で呼ばないでほしい。
錯覚して勘違いして、また失うのはもうごめんなんだ。失うくらいなら最初からいらないんだ。
誰だか知らないけど、俺の左手を離してくれ。引っ張らないで、あのあたたかい場所は俺の居場所じゃない!
「あつ……」
「先輩……?」
「……」
「せ、先輩!」
うっすらと目を開けると、比奈ちゃんが目に涙をためてこちらを見ていた。