ギリシア彫刻が微笑う
07

「うー寒かった!」
「これ絶対身体に悪いって……」

 外に出たとたん元気になった比奈ちゃんに、思わずため息がこぼれてしまう。絶対こんな急激な温度変化は身体に悪い。
 その後も、絶叫系を避けて子供向けのエリアでメリーゴーラウンドやゆっくり旋回する絶叫とはとても言えない微妙な飛行船に乗ったり、わざわざ遊園地に来てこれに乗るのか、と何度思ったことか。しかし、比奈ちゃんが楽しそうにしているので、何も言えなかった。

「うわわ。小さくなってくですよー」
「そうだね」

 なんだかんだですっかり楽しんで、ゲームセンターを出ると、観覧車の時計は五時半を回っていた。
 門限がある(親ではなく幼馴染が決めたらしい)と言う比奈ちゃんと、最後はこれということで観覧車に乗った。
 豆粒が動いてる、と歓声を上げる比奈ちゃんを微笑ましい気持ちで眺めて、俺も外に目をやる。夕陽が迫り、海や建物が赤く塗られた景色はとてもきれいで、これだけでも来たかいがあったな、と思う。
 ゴンドラはゆっくりと頂上へと向かう。

「比奈ちゃん」
「う?」
「こっち来てごらん」
「?」

 何の疑問も持たず俺の座るほうへ来た彼女は、首をかしげて大きな目をきょとんと見開いて俺を見る。ゆっくりと手を伸ばして、怖がらせないようそっと指を頬に滑らせると、ぴくりと身じろぎしてくすぐったそうに笑う。
 そのままもうひとつの手でぐっと比奈ちゃんを引き寄せて、ちょうどてっぺんで唇が重なった。