異国情緒と薄桃色の病
12

 俺の表情が硬くなったのを、暗闇で向き合っている彼女は知る由もないし知らなくていい。

「楽しいとか、どきどきするとか、そういうの、初めてだから」
「……そう」
「だから比奈、……先輩が、……すき……」

 時が止まったかと思った。
 比奈ちゃんの顔は、暗いしうつむいていてよく見えはしないけど、その声のか細さが緊張を伝えてくる。意識しないところで勝手に手が比奈ちゃんに伸びる。びくりと身体を揺らしたのに躊躇せず、指が震える顎をつまむ。

「先、ぱ……んっ」
「……比奈ちゃん」

 すきだよ。
 その四文字が、彼女の口の中に吸い込まれて、消えた。
 震えている身体を塀に押し付けて、むちゃくちゃに小さい唇を吸った。怖がっている、やめないと、でも、好きなんだ。
 いろんな気持ちが交錯して、はじけては消えてまた灯る。
 最後に残ったのは、ああ、これが恋か、なんて間抜けな言葉だった。ああ、これが、恋か。
 泣きたくなるような切なさを、ごまかすように吐息に混ぜる。好きだ、好きだ好きだ好きだ。
 気付いたとたんに麻薬のように脳を蝕んで、ぐらぐらにする。
 昼間の熱気が残るコンクリート塀に手をついて、じっと彼女の顔を見つめた。瞳に涙がきらきらちらついて、そんな女の子の表情なんて腐るほど見てきたのに、宝石みたいにきれいだって思った。
 なんだ、これが恋か。

 ◆◆◆