異国情緒と薄桃色の病
10

「俺は、Giapponeに生まれてからイタリアへ渡ったから、小さい頃のヒサトのことはよく知っているんだ。でも、今回帰ってきた日までの生活は知らないから、とても予想を立てにくいけど」
「……」
「ヒサトが生まれてすぐ、身体の弱かった母親が死んで、小さいって三、四歳の男の子だ、ほんとうに小さいのに、暗い目をしていて、ほとんど笑ったことはなかったな。子供心に、不気味だったのを覚えている」
「死……」

 だから一人暮らしだったのか? いや、そうじゃない。何かをあたしは知っている。それが何かは分からない。
 それはきっと、先輩が最も知られたくないこと。詮索や干渉をうっとうしがる彼が、知られたくないこと、いわば秘密だ。それを、あたしが拓人さんから聞くわけにはいかない。

「もう、いいです」
「え?」
「あなたは、自分が抱え込んでるものを吐き出してすっきりするかも知れないけど、あたしはそんな形で先輩のことを知りたくなんてない」
「……」
「いつか、あたしにも心を開いた先輩から、本人から聞きたい……あ、いや別に知りたいってわけでもないかな」
「……リノは、強いな」
「え?」
「俺は、笑うしかできない」
「……」

 自嘲気味に吐き捨てた言葉に、どんな意味があるのかは知らない。
 けれど、拓人さんが先輩のことを大事に思っているのだけは、なんとなく分かるのだ。
 だから、笑うしかできないことが、いつか先輩の支えになればいいと思う。それは、拓人さんにも尚人先輩にも、救いになるはずだから。