異国情緒と薄桃色の病
09
「……ammazza!」
たぶん、イタリア語ですごい、とかうわあ、とか、そのあたりの言葉なんだろう。呆然と空を見上げる拓人さんが、押し出すようにそう呟いた。
今年初めて見る花火は、圧巻だった。何十発も威勢良く打ち上げられては一瞬の光で消えていく。雄大で儚い。
首が痛いのも気にならないで、あたしは周りの人たちと同じように、ただ上を見つめ続けた。
最後の大玉が夜空に輝いて、人波が動きはじめる。拓人さんは余韻に浸るように、真っ暗になった空を見ていた。
やがて、ふっと視線を落とした彼は、ほうっとため息をついて呟いた。
「Giapponeの花火が、こんなに素晴らしいとは思わなかった」
「そうですか?」
気に入ってもらえてよかった、と言うと、ふわりと微笑まれて思わず赤面する。性格はうざったいことこの上ないけど、好みの男前なのだからしかたない。
人がまばらになった祭り会場を、ゆっくりと手を繋いであとにする。そういえば、先輩たちはうまくいっただろうか。巾着から携帯を取り出して、メールをしたためる。
送信してぱちんと携帯を閉じると、拓人さんが思い出したように口を開く。
「そういえば、ヒサトたちはどうしただろうな」
「さあ……うまくやってるといいんですけど」
「そうだな……ヒナは……」
「え?」
「リノは知っているかな……ヒサトの親のこと」
「いいえ」
「そうか」
海が見渡せる道を通りながら、まるで向こう側に尚人先輩がいるかのように、目を細めた拓人さんは、ふっと息をついて言う。
「ヒサトは女性に優しいな」
「え、まあ……そうですね」
「しかしそれだけだ」
「……そうですね」
いきなり、何を言い出すのだろう。怪訝に思いつつ、中学校の時知り合った彼が、その時すでに恋愛感情について斜に構えていたのを思い出す。女絡みのあまりきれいでない噂はあとからあとからわいていた。確かに、彼は女の子に優しい。けれどほんとうにそれだけだ。尚人先輩が特定の女の子を特別扱いするのは見たことがない。