異国情緒と薄桃色の病
08

 かすれた口笛のような音のあと、上空ではじける。
 比奈ちゃんは、口をぽかんと開けて上を見て、黙って花火に見入っている。屋台の提灯に照らされて幻想的な雰囲気を醸す彼女の頬は、ピンク色にうっすら染まっていた。
 何発も何発も、赤、青、緑、黄、紫、白……色とりどりの花が、真っ暗な夜空に咲き誇る。
 こうしていると、まるで世界が俺と比奈ちゃんだけを残して切り取られたかのようだ。周囲は花火を見る人で溢れ返っているのに、俺たちしかいないような、不思議な感覚に襲われる。
 実を言うと、俺も花火を会場で見るのは初めてだ。今まで、夜道を歩いていて遠くのほうでやっている花火をちらりと見たりすることはあったけれど、そんなのは数のうちに入らない。
 よくよく考えてみれば、先日行った海も、ああして楽しむために行ったことはないし、プールなんか学校の授業すらほとんど受けていなかった。
 比奈ちゃんが初めてだと言うことのほとんどは、俺も初めてだったのだ。

「きれい……」

 ぽつりと、比奈ちゃんが呟いた。
 ぎゅっと握られた手は、汗でうっすら湿っていて、けれどその温度がとても心地よかった。だから、俺はその手を少しだけ力を入れて握り返した。
 隣に彼女がいるだけで、世界はこんなにも美しい。
 もう、認めよう、いい加減。