異国情緒と薄桃色の病
06

 思わず掴んだ右手に、比奈ちゃんがぴくりと反応した。が、祭りのほうが気になるのか、深く追求はされなかった。

「金魚すくい、したい!」
「ああ、うん」
「でめきん!」

 比奈ちゃんに手を引かれて、子どもが集まる金魚すくいの屋台の前に出る。おじさんにお金を渡しポイを受け取ると、比奈ちゃんはしゃがみこんで腕まくりをした。

「ほっ」
「……」
「てやあっ」
「……」
「おろろ?」
「……」
「おろろろろ?」

 一匹もすくうことができないまま、比奈ちゃんのポイは破れてボロボロになってしまった。残念そうにぐちゃぐちゃになったポイを見る比奈ちゃんの隣にしゃがんで、おじさんにお金を払う。もらったポイで、黒い出目金をすくい上げてボウルの中に入れてやると、キラキラした視線にさらされた。

「先輩すごーい!」
「……どーも」

 これしきのことですごいと言ってもらえるなら、何度でもやってあげるんだけどな。
 頭のどこかがショートして焼け焦げてでもいるのだろうか、そんな末期的な気持ちに、俺自身戸惑う。彼女が笑ってくれるなら金魚だってなんだってあげるのに、なんて、恋みたいだ。
 出目金の入ったビニール袋を左手に、はぐれないよう右手を俺と繋いで、比奈ちゃんが機嫌よく歩く。
 左下にひょこひょこ揺れる頭を見ながら、梨乃ちゃんはどうして俺と比奈ちゃんをふたりにしたのだろう、とぼんやり考える。頑張って、との言葉から想像するに、彼女はおそらく俺が比奈ちゃんを好きなんだと思っているのだろうか。というか彼女は俺と比奈ちゃんの距離が縮まることに反対だったのでは?
 実際のところ、俺自身が俺の気持ちをよく分かっていない。
 それでも、この繋いだ手は心地よい距離感で、ほんのりと湿った感触が心臓をふわふわさせる。
 恋、なんだろうか。